学校法人委員会報告第28号
学校法人の減価償却に関する監査上の取扱い
昭和56年1月14日
改正 平成13年5月14日 日本公認会計士協会 学校法人委員会
(参 考) 固定資産耐用年数表
種 類 | 構 造 等 | 耐用年数 | |
建物 |
建 物 |
鉄筋・鉄骨コンクリート造 | 50年 |
ブロック造,レンガ造,石造 | 40 | ||
金属造 | 30 | ||
木 造 | 20 | ||
簡易建物 | 10 | ||
建物付属設備 |
電気設備 | 15 | |
冷暖房ボイラー設備 | 15 | ||
昇降機設備 | 15 | ||
給排水衛生設備 | 15 | ||
消火災害報知設備 | 10 | ||
簡易間仕切 | 5 | ||
構 築 物 |
鉄筋コンクリート遣 | 30 | |
コンクリート造 | 15 | ||
金属造 | 15 | ||
その他 | 10 | ||
教育研究用機器備品 その他の機器備品 |
構造,用途,使用状況等に応じて,右欄の耐用年数を選択適用するものとする。 |
15 10 5 |
|
車 輌 | 5 | ||
施 設 利 用 権 | 15 |
(注)
1.付属病院,研究所等の機器備品については,別途考慮することができる。
2.この表にない資産又はこの表の区分によりがたい資産については,学校法人が別途定めるものとする。
解 説
1.改正の理由
学校法人の減価償却に関する監査上の取扱いについては,既に,「学校法人委員会報告第28号「学校法人の減価償却に関する監査上の取扱いについて」」(昭和56年1月14日)(以下,「第28号」という。)がまとめられ,公表されている。
第28号は公表以来ほほ20年が経過し,会計実務に定着しているが,平成10年度の税制改正により,特に建物の耐用年数が大幅に見直され,短縮されたことに伴い,今般,第28号に掲げられている「固定資産の耐用年数表」を見直すこととなった。
2.見直しに際しての留意点
第28号に記載されているとおり,固定資産の耐用年数は,学校法人が自主的に決定すべきものであるが,「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(財務省令)又は第28号に掲げる「固定資産の耐用年数表」によっている場合も妥当な処理として取り扱うものとされている。
見直すに当たり,留意した点は次のとおりである。
@耐用年数は建物についてのみ見直す。
A耐用年数は5年刻み程度の分かりやすい年数にするという従来の考え方を引き継ぐ。
B改訂後の耐用年数は平成10年度税制改正により改正された財務省令の耐用年数に近い年数とする。
C適用時期は,既に学校法人では平成13年度の予算を編成済みであることを考慮して,平成14年度からとする。
3.改正に当たっての留意事項
第28号の「固定資産の耐用年数表」を適用することを経理規程などに定めている学校法人が今回の改正に伴って耐用年数を変更した場合,会計処理に関する継続性の変更には当たらないが,計算書類にその旨を注記することが望ましい。
耐用年数の変更に際しては,平成14年4月1日以降新たに取得した資産についてのみ採用するのではなく,現に保有している資産についても改訂した耐用年数を採用し計算することとなる。この場合,現に保有している資産の減価償却額の計算は,当該資産の取得価額を基準にして変更後の新しい耐用年数によって新しい年間償却額を計算することとなるという第28号の従来の考え方に変更はない。
(編者注)
昭和56年1月14日付け「学校法人委員会報告第28号」公表時の解説を参考にして,以下に掲載するモノです。
1 本取扱い審議の経緯
学校法人の減価償却に関する監査上の取扱いについては,学校会計委員会報告第8号「学校法人の減価償却に関する監査上の取扱いについて」(以下「第8号」 という。)として,昭和47年1月に公表されていた。「第8号」が公表された時期は,「学校法人会計基準」(文部省令第18号,以下『基準』という。)が文部大臣所轄法人に対して全面的に適用され,いわゆる「正規の監査」に移ろうとする時期であった。
多くの学校法人では『基準』が施行される以前は,資金収支計算を中心とした計算体系がとられ,固定資産に対して減価償却を行うという会計慣行はなかった。このような時期に,「第8号」が公表されたということは,学校法人会計における減価償却を定着させる上で,大いに効果があったものと思われる。
「第8号」の内容は,主として減価償却の計算手続等に対する簡便法といえるものであった。新たに減価償却制度を導入する学校法人にとって,簡便的方法を採用することによって,早期に,かつ,抵抗なく受け入れることができたであろう。また現在では,この簡便化された減価償却の計算手続も,学校法人会計の中で,慣行として定着しているものと考える。
このように,「第8号」の取扱いが,学校法人会計の慣行として定着している現状を踏まえ,「本取扱い」の審議に当たっては,「第8号」の考え方を全面的に 継承することとした。
また,55年5月に「固定資産に関する実務問答集(中間報告)」を公表したことに関連して,「監査上の取扱い(4)」を新たに追加したほか,「第8号」を全面的に補足整備した。
更に,参考として掲載した「固定資産の耐用年数表」についても,若干の見直しをし,一部補足をした。
2 「第8号」のうち削除した項目
「本取扱い」では,「第8号」に掲載されていた項目のうち,「減価償却の意義」と「監査上の取扱い(2)」を削除した。「本取扱い」で,この2項目を削除した経緯について,以下に若干の説明を加えておく。
(1) 減価慣却の意義
『基準』では,減価償却の実施を義務付けているが,「第8号」公表当時は,学校法人に減価償却の慣行がほとんどなかった。また学校法人会計には,本来減価償却は不要である若しくは学校法人は減価償却をすべきではないという理論も有力なものとしてある。このような状況を踏まえ,「第8号」では,『基準』の精神を啓蒙する上からも,減価償却の意義について述べることが,必要であったと思われる。
しかし,『基準』が施行されてから,10年を過ぎた現在では,学校法人会計の実務の中でも減価償却は十分に普及したこと,また委員会報告は,本来公認会計士を対象として公表されるものであることなどを考え合わせ,ことさら減価償却の意義について説明する必要もない,という考え方から削除したのである。
(2)中古資産等の耐用年数
「第8号」の「監査上の取扱い(2)」は,基準日現在に有していた固定資産及び中古資産の耐用年数を決める場合には,当該資産の経過年数を勘案して,耐用年数を決定しなければならない,という趣旨の取扱いであった。
中古資産等の耐用年数の決定に当たって,当該資産の経過年数を勘案することは当然のことである。また「本取扱い」が減価償却に関する簡便法ともいうべき取扱い方法について述べているので,「第8号」の「監査上の取扱い(2)」は,「本取扱い」にはそぐわないという理由で削除したのである。
中古資産等の耐用年数に係る取扱いは,以上のような理由によって削除したのであるから,中古資産等の耐用年数の決定に当たって,「本取扱い」の公表により,経過年数を勘案しなくともよくなった,ということではないので,誤解のないよう留意されたい。
3 監査上の取扱い
(1)について
本文にも述べられているとおり,固定資産の耐用年数は,本来学校法人が固定資産の使用状態等を勘案して,自主的に決めるべきものである。しかし,現実の問題として,学校法人が独自に各種の固定資産について,合理的に耐用年数を決定するということは,不可能に近いことであろう。そこで「減価償却資産の耐用年数に関する省令」(大蔵省令)の採用を認めるとともに,「第8号」にならって,「本取扱い」でも参考として「固定資産の耐用年数表」を後掲し,この「固定資産の耐用年数表」によっている場合も,妥当な会計処理として認めることとした。
このことは,前記大蔵省令又は「本取扱い」の耐用年数表を,そのまま採用しなければならないということではなく.これらの耐用年数表を参考にして,学校法人の実情に合わせ,改定したものを当該法人の耐用年数表としても差し支えないものと解する。このほか各私立学校団体で公表している耐用年数表によっている場合も,妥当なものとして取扱って差し支えない。
いずれにしても,各学校法人の経理に関する規程の中に,どのような耐用年数表によっているか,又は学校法人が独自に耐用年数表を作成している場合には,その旨を明記しておく必要がある。
(2)について
減価償却額の計算に当たっては,取得価額,残存価額及び耐用年数の3つの要素が明らかになっていなければ,償却計算が不可能であることは自明のことである。
この3つの要素のうち,残存価額については,「第8号」では,「監査上の取扱い」で,学校法人が独自に決定すべきだといっていた。また「第8号」の「固定資産の耐用年数表」の付記では,「残存価額は,零として償却計算を行う」こととされていた。このような「第8号」の取扱いは,参考の耐用年数表を採用するときは,残存価額を零として計算しなければならない,という誤解を与えかねない。一方,学校法人会計では,残存価額を零として減価償却額の計算をすることは,すでに慣習として定着しているものと思われるので,「本取扱い」では,学校法人会計特有の計算方法として認め,本文の中で明らかにしたのである。
また,備忘価額についても,「第8号」では,「耐用年数表」の付記で「1円の備忘価額を残すものとする。」と断定していたのであるが,これも本文の中に記載し,金額も1円にこだわらないこととした。
この取扱いは,本文にも明記してあるとおり,有形固定資産の減価償却に係るものであるが,有形固定資産であっても,機器備品で取得年度ごとに,同一耐用年数のものをグループ化して,一括償却をする方法(以下「グループ償却」という。)を採用している場合には,(4)の取扱いが適用されるので適用外と解してよい。
(3)について
固定資産を新たに取得した会計年度における,当該資産に係る減価償却額は,その資産について計算される年間償却額を,月数按分するなどして,取得年度の償却負担を適正に計算するのが原則である。しかし,本文の「イ−ハ」に記載されているような,便宜的な方法で計算しても,妥当な会計処理とみなして差し支えないというのが,本取扱いの趣旨である。
「本取扱い」では,「イ−ハ」の簡便法を採用する条件として,「重要性のない場合」に限ることとした。「第8号」には明記されていなかったことである。
これらの簡便法は,あくまで便宜的にその採用を認めるものであるから,その採用に当たっては,計算書類に与える影響が少ない場合にのみ認められるものでなければならない。 「第8号」でも,基本的考え方は同じであったのであるが,重要性について明記されていなかったので,「本取扱い」の公表を機にこのことを明らかにしたのである。
ここでいう重要性とは,金額の重要性ということであって,科目別の重要性というか,固定資産の科目ごとに重要度を判定して,処理方法を選択するということではない。例えば,平年度は,「ロ」の,翌年度から償却を開始する方法を採用している学校法人が,ある年度に校舎の大部分の建て替えをしたり,校舎を移転したようなときに,新規取得資産について平年度と同じ減価償却の取扱いをしていると,当該年度の減価償却額の負担は,原則的計算方法(新規取得資産の減価償却額を月数按分する方法など)によった場合に比し異常に少なくなり,真実の姿を表わさないこととなる。このような会計年度には,平年度に新規取得資産に係る減価償却額を,「ロ」により翌年度から計算していても,当該年度に限り年間償却額を月数按分するなど,原則的な減価償却額の計算をする必要がある。
「イ−ハ」の計算方法を採用する場合には,資産の種類ごとに同一の方法を採用し,かつ,毎期継続して同一の方法を適用しなければならないことは当然である。
(4)について
この取扱いは,先に公表した「固定資産に関する実務問答集(中間報告)」の3−5を受けて,今回新たに加えたものである。その趣旨は,機器備品について,「グループ償却」を採用している場合には,償却が完了した会計年度に除却処理をし,前記(2)のように備忘価額を付して,会計上機器備品の価額を残す必要がないということである。
この機器備品の「グループ償却」は,事務手続の簡素化のため,多くの学校法人で採用しているものと思う。「グループ償却」を採用している場合であっても,備品が存在する限り,その存在を明らかにするため,また備品等の管理目的の上からも,備忘価額を付して,会計上も記録を残すべきであるという意見も有力である。論理的には,この意見は正しいものであろう。しかし,「グループ償却」を採用している場合に,備品等に備忘価額を付すとすれば,1点ごとに備忘価額を付さなけれはならないであろうし,備品等の除却の際の手続も煩雑となり,事務手続の簡素化という目的から「グループ償却」を採用していながら,その目的を達することができなくなる。
このような見地から,「グループ償却」を採用している場合は,償却が完了した会計年度に備品等の除却処理をしても,現にある備品について,固定資産台帳の中に「簿外管理台帳」を設ければ,現品の管理目的も達せられるということで,意見の一致をみたのである。
「グループ償却」を採用している場合の会計処理は,減価償却額の処理について直接法を採用していれば,償却が完了した会計年度の機器備品の帳簿価額は零となり,除却に関する特別な会計処理は必要ない。また,間接法を採用し減価償却引当金勘定を設けている場合には,次の仕訳によって処理されることになろう。
(借 方)減価償却引当金 ××× (貸 方)機器備品 ×××
なお,「グループ償却」を採用している場合,償却完了によって機器備品の除却処理をしたときには,当該機器備品の取得価額に相当する額は,当該会計年度の基本金の組入計算に際し,取得更新の対象となる(「基本金設定の対象となる資産及び基本金の組入れについて」(文管振第62号)3−(2)−ア参照)。
(5)について
本取扱いによって,減価償却に係る会計処理,又は固定資産の耐用年数表を変更した場合には,正当な理由に基づく変更と認めた監査意見を表明することとなる。
会計年度の中途で取得した固定資産の減価償却について,(3)の取扱いを適用するに際しては,資産の種類ごとに異なる取扱いをすることも考えられる。例えば,建物等個別償却をする資産については,「イ」の方法により取得年度に,2分の1の償却を行い,「グループ償却を採用している機器備品については,「ロ」により翌年度から償却を行うなどである。このような場合にも,妥当な会計処理として取扱って差し支えない。
また,耐用年数の変更に際しては,新たに取得した資産についてのみ,新しい耐用年数を採用することなく,現に保有している資産についても,新しく採用する耐用年数によるべきである。この場合,現に保有している資産の減価償却額の計算は,当該資産の経過年数に関係なく,その資産の取得価額を基準にして,新しい耐用年数によって,新しい年間償却額を計算することとなる。
(耐用年数変更の場合の計算例)
固定資産の取得価額1,000,000円
当初の耐用年数 10年
|
|