非常勤講師に支払う通勤費について
                公認会計士 山口善久
 古くて新しい話題として、非常勤講師に支払う通勤費にかかる会計処理の問題があります。聞くところによりますと、最近この話題がまたまたあちらこちらで取り上げられているようです。そこで、この問題に対して若干の検討を行ってみたいと思います。
 非常勤講師が出校するための交通費については、日本公認会計士協会学校法人委員会は、学校法人会計問答集(Q&A)第3号「人件費関係」(昭和59年4月24日)で取り上げ、当該交通費は、通勤手当となり人件費支出として処理することとしています。



 
(質問6)非常勤講師に支払う旅費はどのような費目に計上するのか。
(答)
  講師として出校するための交通費は通勤手当となる。−筆者略−この
 通勤手当については、本来の報酬に合算して記載する。
 また、日本私学振興財団は、「補助金事務必携」第5章会計検査院実地検査の状況と留意点で、「教育研究経費にすべきか、人件費にすべきか、判断に迷う経費も多くあります」と前置きし、「専任教員や非常勤教員の通勤に要する経費を教育研究経費の旅費交通費で処理する場合があります。常時出勤する専任教員の場合は通勤手当として処理することが一般的ですが、常時出勤を要しない遠隔地等からの教員等の場合には、それが実費程度を支給しているならば、人件費の通勤手当でなく、教育研究経費の旅費交通費として処理することもあります。課税上の問題もあって、人件費ではなく教育研究経費の旅費交通費として処理している場合もあるでしょう。
 旅費交通費の中には、単に交通費だけでなく、宿泊に要する経費も含む場合があります。どこまで教育研究経費としてよいのか確かに区分が困難です。日当・宿泊費も学校の規程による旅費交通費の一環であると考えれば教育研究経費となるかもしれません。会計処理上あながち誤りであるとはいえません。要は会計処理上、どのような考え方をとるのか、ということです。実地検査でもし問題が提起されたならば、人件費としないで教育研究経費とした事情と根拠を説明する必要があります。」と述べています。この見解は、日本公認会計士協会の見解を尊重しながらも、これ以外の処理、すなわち、教育研究経費支出としての処理を認めているものと思われます。
 さて、冒頭に返りますが、日本公認会計士協会の見解は、専任教員に対する通勤費が通勤手当として人件費支出に処理されるのであるから、非常勤講師に対する通勤費も同じ処理とすべきであるということを根拠としているように、私は推論します。
 これに対して私は、谷田部、馬場両先生との共著「問答式学校法人会計」で、遠方の学校への旅費という質問を掲げ、「非常勤講師に支払う報酬は人件費支出であることは当然ですが、その際支払う交通費は、常勤教員と同じようなその他の手当かという疑問があります。非常勤講師に対しては、普通、講義報酬と実費保障たる交通費とを一緒に支払いますが、その内容は、明らかに区分されているものといえますので、手当と考えるより交通費実費として考える方が望ましいといえます。したがって処理科目は教育研究経費支出(旅費交通費支出)となります。」と回答しています。この見解の根拠について、以下に述べてみたいと思います。
 ただ見解の根拠といいましても、集約すると上記の回答以外の言い方はなく、取り立てて述べることもありませんが、その考え方はまさに所得税法の非常勤役員等の出勤のための費用に対する取り扱いと同じ視点に立っています。
 所得税法は、給与所得を有する者で通勤するものが、その通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分については非課税とするとしています(所得税法第9条第1項第5号)。
 これは、住居をどこに定めるかは個人の選択にかかることであるから、通勤費として雇用者から給与所得者に支払われたものは、家事費の範囲内にある、すなわち、給与所得者が受けた通勤費は本来的に給与収入であると考えることを基盤にしているようです。しかしながら、現代のように通勤費を受けている勤労者が自己の選択によって住居地を定める自由度が制限され、その通勤距離がますます長くなることを考えると、通勤費を家事費とするのには無理があるといわれています。そこで税制は、給与所得者が受けた通勤費のうちの一定額を非課税とすることをもって、この疑問についてのカバーをしているものと思われます。
 以上が、常態の通勤者における通勤費に対する税の考え方ですが、非常勤役員等その勤務に特殊性があるものについても同様に考えられるのでしょうか(ここでは、非常勤役員等の通勤費について検討するのであって、通常の非常勤者の通勤費について検討するのではありません)。
 税制は、非常勤役員等が、その勤務する場所に出勤するために行う旅行に必要な運賃、宿泊費等の支出に充てるものとして支払われる金品(通勤費)をこれらのものの通勤費として取り扱うかどうかには疑問があるとして、「すなわち、これらの者の出勤日数は一般の常勤者に比較して著しく少なく、その出勤状態が「通勤」といえるものでないこと、これらの者がその出勤する場所からかなり遠隔の地にある場合も多く、その出勤の費用も多額に上がることなどの事情から、これを一般の通勤手当と同様のものとして課税することは、かえって実情にそぐわないと考えられる」(国税庁課税部長 内野正昭監修、所得税基本通達逐条解説、大蔵財務協会発行)として、所得税基本通達9−5で、これをいわゆる旅費に準ずるものとして取り扱うこととしています。そして、企業会計の実務も、これを背景にしてこれらの支出は旅費交通費として処理するのが通常かを思われます。
  ○所得税基本通達9−5(非常勤役員等の出勤のための費用)







 
「給与所得を有する者で常には出勤を要しない次に掲げるようなものに対
し、その勤務する場所に出勤するために行う旅行に必要な運賃、宿泊費等
の支出に充てるものとして支給される金品で、社会通念上合理的な理由が
あると認められる場合に支給されるものについては、その支給される金品
のうちその出勤のために直接必要であると認められる部分に限り、法第9
条第1項第4号に掲げる金品に準じて課税しなくて差し支えない。
(1) 国、地方公共団体の職員、委員、顧問又は参与
(2) 会社その他の団体の役員、顧問、相談役又は参与 」
(筆者注)法第9条第1項第4号は、旅費の非課税規定である。





 
 なお、この9−5が適用されるのは、上記のように支給される金品の
うちその出勤のために直接必要であると認められるものについてである
から、渡し切り支給であるとか、本来は給与として支給すべきものを出
勤費という形で支払うものは当然のこととして適用されません。
 また、この9−5の取り扱いは、実務的には、大学の非常勤講師等に
も及ぶものとされています。
 言い換えるならば、非常勤役員等が受ける出勤のための費用は、給与収入を構成しそれを持ってカバーされる家事費とは考えなくともよいとしているのです。このような税制の考え方は、大都市等でその近辺に住まいするものを非常勤講師として採用する場合は別として、地方の大学等が遠方に住まいするものを非常勤講師として採用する場合にその通勤費を人件費支出として処理し、その結果、本来的な報酬額より交通費や宿泊費が人件費支出の中で大きな比重を占めるようなことをも併せて考えますと、当該処理方法を税には直接的には関係ない日常の会計処理に導入することは実によく適合するように思われます。
 常勤者に対する通勤費と非常勤講師等の非常勤者に対する通勤費(通勤費というより旅費)は、その雇用に対する事情に相違があり、また、その額も報酬部分に比して多額となること等を考慮しますと、その会計処理も当然のこととして異なった処理が認められるべきであり、大学の非常勤講師が出校に要する交通費や宿泊費は旅費交通費として教育研究経費支出として処理すべきものと考えます。