| 特記事項と参考事項 1 特記事項 「特記事項」とは、平成4年11月11日付けで公認会計士協会監査基準委員会から公表された企業会計報告制度における公認会計士監査の取り扱い(監査基準委員会報告第2号、以下「特記事項」という。)である。 それによると「特記事項は、財務諸表に注記されている重要な偶発事象、後発事象等で会社の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにするため、監査人が特に必要と認める事項を監査報告書に重ねて記載することによって強調し、それによって利害関係者へ注意的情報または警報的情報を提供するものである。」とされており、その記載例は次の通りであり、企業の会計報告制度では平成4年11月15日以後に作成する中間監査報告書から適用されることになっている。 |
||
| 記載例 他社に対する債務保証の履行の可能性がある程度見込まれる場合 | ||
| 特記事項 注記事項(貸借対照表関係)6.偶発債務に記載されているとおり、会 社は、A社の借入金に対して125億円の債務保証を行っている。同社は、 財政状態が著しく悪化しているが、財務内容を改善すべく再建に着手して おり、同社の債権者から会社への債務保証の履行請求は現時点では行われ ていない。今後、同社の再建が計画通り進展せず、更に財政状態が悪化し た場合には、会社は、履行請求に基づき同社の債務を弁済することになる 可能性がある。 |
||
| 「特記事項」によると、特記事項は先にみたように財務諸表に注記されている重要な事象等について「監査報告書に記載されるものであるが監査意見ではない」とされている。しかしながら、同報告書は「記載の仕方いかんによっては利害関係者に誤解を与えるとして監査人の責任が問われる可能性がある。また、特記事項として記載すべき事項が存在したにもかかわらず、特記事項を記載しなかった場合においては、監査人の責任が追求される可能性もある。」ともされているので、意見と同様にも考えられる。 さらに、「当面、特記事項として記載される事項は財務諸表に注記されている偶発事象及び後発事象のうち特に重要な事象に限定されよう。」とし、記載の対象となる偶発事象及び後発事象については、「実務上の一応の目安を示すならば、対象となる偶発事象または後発事象の金額が著しく重要なため、もしそれが発生しているにもかかわらず財務諸表に計上されていなければ、不適正の監査意見を表明することとなるほどの重要性をもつ場合には、それを特記事項として記載すべきか否かを検討することになろう。」としている。 ※ 偶発事象 ※ 後発事象 以上が、今般公表された「特記事項」の概要であるが、学校法人の会計報告制度でも監査報告書に監査人の意見を記載する取り扱いがある。 2 補足的記載事項等 学校法人委員会公表の参考資料「学校法人監査にかかる除外事項、補足的説明事項、付記事項及び参考事項の記載区分等について」(昭和54年6月18日、以下「補足的説明事項等」という。)である。 内容は、私立学校振興助成法第14条第3項の規定に基づく監査報告書において、除外事項等の監査人の意見を記載するに当たり、各意見区分等に若干の混乱があるため、妥当な慣行が生成されるための参考資料として示されたものである。 内容は、1.除外事項、2.補足的説明事項、3.付記事項、4.参考事項に区分されている。除外事項はさておき、2.の補足的説明事項は、「監査報告準則五に定められた「後発事項」を記載するものとする。なお、当該事項につき、計算書類に注記されている場合には、注記の内容が妥当である限り、補足的説明事項の記載を省略するものとする。」とされている。 注記事項と意見との連携 3 監査基準 ところで平成3年12月26日付けの監査基準、準則の改訂以来、監査基準、準則がそのまま企業会計監査のみではなく学校法人会計監査にも適用されるとの論がある。これは今回の改訂が「監査領域の拡大を踏まえ、証券取引法監査を前提とした表現となっている規定を、財務諸表監査一般に適用し得るよう、一般的な表現に改めた」とするJICPAジャーナル等の改訂にかかる審議経過等の解説記事等から主張されているようであるが、この論をそのまま受け入れるには抵抗がある。 確かに公認会計士が実施する監査の基準は公認会計士監査一般に適用すべきであるとの考え方には首肯できるところでもあるし、また、そうあるべきであろう。このことは、先の解説記事等の考え方に賛意を表することであっても、実際の監査基準、準則の学校法人会計監査へのそのままの適用に賛意を表することではない。 監査基準、準則の改訂前文に企業会計の監査のみならず広く他の会計の監査にも配慮して改訂が行われたように掲げてあるが、その思考の底流はそうであっても具体的な改訂作業に当たってはそこまでの配慮がなされたのであろうか。 監査基準は、第一一般基準、第二実施基準、第三報告基準の三つから構成されている。そして、第一の一般基準は一〜四、第二の実施基準は一〜三、第三の報告基準は一〜四と、その内容を構成させている。 第一の一般基準の一〜四は、企業会計の監査にも学校法人会計の監査にもそのまま適合するものである。また、第二の実施基準の一〜三も同様である。しかしながら、第三の報告基準については一を除いては疑問がある。 4 報告基準の二 報告基準の二は、「財務諸表に対する意見の表明は、財務諸表が企業の財政状態及び経営成績を適正に表示しているかどうかについてなされなければならない。」とされているが、ここでの監査客体は「企業」とされている。これに対してはこの「企業」を学校法人と読み変えればよいではないかとの意見もあろうが、他の箇所では「等」一語でもそれが何を意味するかを真剣に討議していることからすると問題はそう簡単ではない。(ここらに先の述べたように改訂の底流にある考え方と実際の改訂作業とでその態度が異なっているのではないかと疑念がもたれるゆえんでもある。)さらに、ここでの「財政状態及び経営成績」という文言にはより重要な点を含んでいる。企業会計における財政状態及び経営成績を表示する財務諸表は、貸借対照表と損益計算書である。しかしながら、学校法人会計における財政状態及び経営成績を表示する計算書類は、貸借対照表、消費収支計算書及び資金収支計算書である。監査基準は「財政状態及び経営成績」を如何なる報告書で表示させるつもりであろうか。※1ここでの報告書の違いは大変重要である。「財政状態及び経営成績」については、それぞれの会計の分野で考慮すればよいと言う思考があろうが、これでは先の基準を一般規定とする考え方と矛盾しよう。これを単に読み替えるという論で監査基準を学校法人会計監査にも適用されるとするのであれば、監査基準の規範性は極めて弱められ、監査基準がどの監査に適用され、どの監査に適用されないと論ずるに及ばないことになる。 5 報告基準の三 報告基準の三は、「監査人は、自己の意見を形成するに足る合理的な基礎が得られないときは、財務諸表に対する意見の表明を差控えなければならない。」であるが、企業会計監査は監査対象である財務諸表が適正であるか否かについて公認会計士が意見表明し、広く財務諸表の利害関係人に知らしむることを制度としたものであり、したがって、そこには利害関係人と監査人との間には意見表明についての責任問題が生ずる。よって、意見表明に合理的な基礎が得られないときは意見表明を差し控えることが必要になり、そして、それ以外の意見を報告書に記載することを禁止するのである。しかしながら、学校法人監査においては、このように思考するためには公認会計士監査の制度そのものが異なるため、この考え方をそのまま学校法人監査に当てはめることは難しいことになる。 学校法人会計における公認会計士監査は、国または地方公共団体の補助金行政の中で制度化されているにすぎず、したがって、ここでの公認会計士監査の意見に対する利害関係人は補助金を支出している国(日本私学振興財団を含む)または地方公共団体に限定されるのである。このような制度となっているところから、意見表明に合理的な基礎を得られないときは、公認会計士はその責任から意見差し控えの監査報告書を作成しても、そこに公認会計士から行政に提供できる情報は、監査報告書に参考事項としての記載が望ましいとの先の委員会報告が文部省及び日本私学振興財団と公認会計士協会との間での話し合いで合意され、纏められ公表されたのである。 6 報告基準の四 報告基準の第四は、「監査人は、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにするために特に必要と認められる重要な事項を監査報告書に記載するものとする。」であるが、これについては、前述の参考事項の記載を考えて頂ければ、その違いは言うまでもないものと思う。ただ、蛇足的に述べるならば、この特記事項は企業会計を律している財務諸表規則等を念頭において定められているものと思われる※2ので、広く一般の監査に当てはめるには余りにも無理があるものと思う。そういった意味からしても、これは基準からはずして準則にすべきであったかと思う。※3 |
||
| ※1 この点をみると学校法人監査における監査報告書の文言にも若干問題 | ||
| がある。最近草案として公表されている国際監査基準「財務諸表の監査 報告書(案)」では監査報告書の意見区分が「私どもの意見では、財務 諸表は、すべての重要な点において、………の………現在の財務諸表並 びに同日をもって終了した事業年度の経営成績及び資金収支について… ……に準拠して(及び………に従って)、真実かつ公正な概観を与えて いる(叉は「適正に表示している」)。」※4となっていることをみると、 学校法人監査でもこの文言を利用すべきかもしれない。 |
||
| ※2このことは会計士協会から公表された先の「特記事項」における「」を | ||
| みると自明である。 | ||
| ※3監査準則についての学校法人監査における適用の是非については叉の機 | ||
| 会に譲りたい。 | ||
| ※4 1993年2月1日国際会計基準「財務諸表の監査報告書(案)」公開草案 | ||
| 7 結び 監査基準に対する学校法人監査からの意見を述べてきたが、要は監査基準の底に流れる精神は十分尊重すべきであるし、監査基準はそうあるべきものであろうが、といって現行の監査基準のそのままの学校法人監査への適用を許容すると言うことではない。 したがって、「特記事項」が公表されたからといっても、「参考事項」は廃止されるべきでもなく、現行の学校法人会計の監査制度が変更されない限り有効かつ有益なものといえ、現行監査基準にうたわれた「特記事項」の記載は学校法人監査には適用すべきではないものと考える。 |
||