基本金と基準見直し
公認会計士 山 口 善 久
まえがき
 学校法人会計基準の見直しにあたっては、やはり「基本金」をどのように扱うかがポイントのようである。そこで、基本金について若干の考察をしてみよう。
 基本金は言うまでもなく、貸借対照表の純資産の部における概念である。
 企業(営利法人)においては、その純資産の部に資本概念をおき、資本金を明示する各種企業会計の定めを持っている。一方、非営利法人においては、ここで検討の対象としている学校法人会計基準(以下、「学校基準」という)や公益法人会計基準及び公益法人会計基準(案)(以下「公益基準案」という)があり、それぞれが純資産の部についての定めをおいている。
 このように、非営利法人について純資産の定めに各種あるが、このうち公益基準案はごく最近の議論により取り纏められたものであるので、これを糸口にして学校基準の基本金を考えてみたい。
 
1 指定正味財産と一般正味財産 
 公益基準案は、貸借対照表の正味財産の部を指定正味財産と一般正味財産に区分するとともに、正味財産増減計算書(学校基準における消費収支計算書)に指定正味財産増減の部をおき、ここに指定正味財産の増減を計上することをもって、一般正味財産を純化させ、その増減によって法人活動の効率性を計っている。ここで、指定正味財産とは、寄付者等の意思によって特定の目的に使途が制約されている寄付等を受け入れたことによって増加した純財産としている。
 このことは、指定正味財産をあたかも企業会計における資本(金)のように扱っているものと考えられる。このようないわゆる資本取引と損益取引の区分は、学校基準にとっても、法人活動の効率性を明らかにするために必要であるので首肯できるところである。
 
 この考えは、FASB(Financial Accounting Standard Bord)の財務会計諸概念に関する報告書(Statement of Finansial Accounting Concepts)において、非営利法人における純財産を、永久拘束純資産(permanently restricted net assets),一時拘束純資産(temporarily restrict net assets),非拘束純資産(unrestricted net assets)の三つに区分している考えに通じるものであり、このうちの永久拘束純資産と一時拘束純資産とを併せたものを指定正味財産と考えてよいであろう。
  ※ 訳語はいずれも、平松一夫訳中央経済社「FASB財務会計の諸概念」に   よる
 公益基準案は、正味財産の部を二区分としたが、財団法人や社団法人のような非営利法人とは異なった学校法人にとっては、後述することからして二区分よりもFASBの三区分の方がわかりやすいものと考える。
 
 しかしながら、公益基準案は、資本取引とした指定正味財産の対象とした資産に係る減価償却を指定正味財産から一般正味財産への振替要因としている。これは、寄付者等の意思により当該資産の使途について制約が課されている寄付等によって受け入れた資産(例えば、当該資産を基本財産とすると使途制約が課された資産)に係る減価償却計算の実施によって資本取引を損益取引に振り替えることであり、極論するならば、資本金を剰余金に振り替えることである。
 これを、企業会計の上からみてみよう。
 上記の振り替えは、「(借方)工 場 ×× (貸方)資本金 ×× 」で活動を開始した企業が、工場の減価償却を実施したのみで資本金を減少させ、その見返りとして収益を生み出すことである。
 したがって、資本として捉えた正味財産を課された制約の解除を検討することなく取り崩すことには強い疑問があり、制約解除の特別の要因がない限り、資本として捉えた正味財産を拘束された正味財産として維持し続ける考え方が特に学校法人の活動には求められる(これについては後述する)ので、減価償却の実施による指定正味財産の減少には賛同できない。しかし、資産の使用とともに課された制約が解除される固定資産に係る減価償却費の額を一般正味財産に振り替えるのは、元々寄付者等の意思が使用された価値(減価償却費)を補填するために収益を与えることにあったものと考えられるので、この処理は妥当とされる。ここに、指定正味財産に、永久拘束と一時拘束が生じるのである。
 
2 指定正味財産と基本金
 では、何を指定正味財産として捉えるべき(若しくは捉えられるべき)であろうか。
 学校基準の基本金(第30条)の定めをみてみよう。
 第30条は、1号から4号までに定める資産の額に相当する金額を基本金に組み入れるとし、具体的には次のようにしている。
@設立当初に取得した教育用の固定資産
 又は、
 新たな学校の設置のために取得した固定資産
 若しくは、
 既設の学校の規模の拡大・教育の充実向上のために取得した固定資産
A新たな学校の設置のために将来取得する固定資産の取得に充てる金銭等
 又は、
 既設の学校の規模の拡大・教育の充実向上のために将来取得する固定資産の取得に充て る金銭等
B基金のための資産
C恒常的に保持すべき資金
 いずれも、資産の側からの定めであり、取得源泉(収入等)面からの制約については触れられていない。
 しかしながら、学校基準の定めは昭和63年の改正によって現行のようになったのであって、改正前の第30条はこの定めではない。
D設立当初に取得した教育用の固定資産
E新たな学校の設置のために取得した固定資産
 若しくは、
 既設の学校の規模の拡大・教育の充実向上のために取得した固定資産
 又は、
 これらの目的のために固定資産を取得すべきものとして収受した金銭等
F基金のための資産
G恒常的に保持すべき資金
 どちらも同じようであるが、旧学校基準にはEの後段規定(これらの目的のために固定資産を取得すべきものとして収受した金銭等)があり、この定めがあることによって、両基準での基本金の性格がかなり異なってくる。
 
3 指定正味財産の検討
@ 現行学校基準、旧学校基準の両学校基準に定められている「設立当初に取得した教育用の固定資産」(2−@D)及び「新たな学校の設置のために取得した(教育用の)固定資産」(2−@E)は、私立学校法第25条の「学校法人は、その設置する私立学校に必要な施設及び設備又はこれらに要する資金並びにその設置する私立学校の経営に必要な財産を有しなければならない。」との定めからして、学校設置(存立)のためには必須の財産であり、これらは「負担付き又は借用のものでない(学校法人の寄附行為及び寄附行為変更認可に関する審査基準。以下「審査基準」という)」との条件が付されている。このことは企業会計流にいうと、「(借方)施設設備 (貸方)自己資本」を指しており、学校法人会計でも同様に考えたい。とすると、ここでの「自己資本」は、先程来検討してきた法による学校の存立基盤としての施設設備と負担付・借用でない取得源泉、すなわち、特定の目的に使途が制限されている寄付を受け入れた(若しくは一般正味財産から指定正味財産へ振り替えた)ことによる指定正味財産と考えることができる。
A 「既設の学校の規模の拡大・教育の充実向上のために取得した固定資産」(2−@E)が、取得源泉からの制約をどのように認識するかについては難しい。この取得が自己資本でなければならないという制約を強制的に課すことはできない。
 しかしながら、これらの固定資産が寄贈資産であるならばこの取得源泉には会計期間の上で制約が課されていることになり、この限りにおいて指定正味財産である。
B「新たな学校の設置のために将来取得する固定資産の取得に充てる金銭等」(2−A)及び「既設の学校の規模の拡大・教育の充実向上のために将来取得する固定資産の取得に充てる金銭等」(2−A)は、その取得源泉がどのようなものであるかが判然としないので、これだけでは指定正味財産の増加要因とはならない。指定正味財産となるか否かは、取得源泉の内容に委ねられる。勿論、一般正味財産を振り替える(固定資産引当資産として積み立てる)だけでは、指定正味財産の増加ではない。
C 「これらの目的のために固定資産を取得すべきものとして収受した金銭等」(2−E)は、収受金銭等が固定資産取得のために制約されているのであるから、指定正味財産である。
 実は、この旧学校基準のように金銭収受を基本金(指定正味財産)としてとらえることが基本金の定めに重要なのである。すなわち、この定めがある故に、旧学校基準の第30条の他の項も取得源泉の面から読むことが出来ると私は考えている。
D 基金(2−BF)は、寄附等の収受若しくは一般正味財産からの振り替え(企業会計流にいうと剰余金からの振り替え)、いずれであっても基金の性格上、指定正味財産である。
E 恒常的に保持すべき資金(2−CG)は、審査基準で「経営に必要な財産(経常経費)に相当する寄附金が収納されている」ことが求められているものであり、かつ、「原則として借入金を充てるものでないこと」からして、指定正味財産である。
F ただ、ここで今一歩踏み込んで検討しなければならないことは、設立当初及び新たな学校設立時の施設設備の取得に負担付或いは借用のものがある場合と固定資産について減価償却を実施した場合の扱いである。
イ 設立当初及び新たな学校設置時の施設設備の取得に負担付或いは借用のものがある場合(@のケース)は、指定正味財産の未組み入れとして扱い、取得以降、指定正味財産と捉えるべき金銭等の受け入れ若しくは一般正味財産からの振り替えにより未組み入れを解消していくべきである。欠如資本金の事後充足である。また、言うまでもなくこれが私立学校法の考え方である。
付言すれば、他のA〜Eのケースには、通常未組み入れが生じる余地がない。
ロ 設立当初及び新たな学校設立時に取得した固定資産について減価償却を実施した場合は、減価償却費相当額を金銭等の資産で確保し、指定正味財産の保持を目指すべきである。
 このことを主張すると、指定正味財産の空洞化などという論が出てくるかのしれないが、この状況は企業会計でも珍しいものではない。利益を獲得できない企業の資本の部はプラスの資本金とマイナスの剰余金(損失金)とで構成され、このことが企業の財務状況を表すものとされている。
 
4 指定正味財産と永久保持・一時保持
 以上を纏めると、指定正味財産は次のようになる。
@ 設立当初に取得した教育用の固定資産
………資産の性格から、その取得財源は永久保持の制約が課された寄付等であり、その収受は永久指定正味財産の増加である。
A 新たな学校の設置のために取得した教育用の固定資産
………資産の性格から、その取得財源は永久保持の制約が課された寄付等や一般正味財産からの振り替えであり、その収受や振り替えは永久指定正味財産の増加である。
B (既設の学校の規模の拡大・教育の充実向上のための教育用の)固定資産
………固定資産の取得年度に対応する取得源泉がある場合には、使途の制約内容により、永久指定正味財産か一時指定正味財産の増加であり、収受がない場合には、指定正味財産の増加も正味財産の増加もなく、単なる資産の交換取引である。
C (既設の学校の規模の拡大・教育の充実向上のための)固定資産を取得すべきものとし て収受した金銭等
………使途の制約内容により、永久指定正味財産か一時指定正味財産の増加である。
D 固定資産以外に使用されるために収受した金銭等
………使途の制約内容により、永久指定正味財産か一時指定正味財産の増加、又は、一般正味財産の増加である。
E 基金
………基金の性格から、その取得財源は永久保持の制約が課された寄付等や一般正味財産からの振り替えであり、その収受や振り替えは永久指定正味財産の増加である。
F 恒常的に保持すべき資金
………資金の性格から、その取得財源は永久保持の制約が課された寄付等や一般正味財産からの振り替えであり、その収受や振り替えは永久指定正味財産の増加である。
 そして、これらは、一時指定正味財産といえども課されている制約の解除がない限り減額すべきでないことは言うまでもない。
 制約の解除には、設立当初の教育用固定資産のように制約が永久で解除が容易でないものや、通常時の取得固定資産のように制約が一時で解除が容易なものがある。
 制約が永久のものは、減価償却等によっての減額は認められない。そして、これを指定正味資産と呼ぼうが基本金と呼ぼうが実質的に何らの差異がない。しかし、制約が永久のものについては基本金という名称を残した方が計算書類の読者には分かりやすいであろう。
 
5 消費収支計算書
 とすると、これに合わした正味財産計算書(消費収支計算書)が求められ、現行消費収支計算書の修正となる。
 以上検討してきたことからすると、指定正味財産となる取得源泉(収入等)を消費収支計算書から外し貸借対照表項目として処理するのが企業会計の考え方であり、これを消費収支計算書に一度は計上するのが基準案や昭和51年の日本公認会計士協会の消費収支計算書に係る提言である。
 いずれにしても、消費収支計算書に計上される消費収入(企業会計や基準案によると帰属収入の概念はなくなる)は、直接的に消費支出に対応するものになり、そこで算出される収支差額は、現行学校基準における特殊な収支差額ではなくなる。また、日本公認会計士協会提言による消費収支計算書にしても帰属収入の表示はあるがそこで算出されている消費収入は消費支出に直接対応できるものとなっているので、結果的には企業会計や基準案と同様であり、そこでの収支差額は経営の効率性を現すものである。
 以上、基本金に係る問題を検討してみたが、残念ながら諸問題のうちのほんの一端のみしか触れていないかもしれない。些かなりとも今回の基準見直しの糧になれば幸いである。