基準の改正論議によせて
                          平成15年1月25日
公認会計士 山 口 善 久
1 企業会計方式について
 公会計における企業会計方式の導入などをうけて、学校法人会計基準(以下、「基準」という)の見直しについての意見があるようである。基準は、消費収支計算書、貸借対照表を備え、かつ、資金収支計算書をも持っているため、公会計とは違って計算書類の体系についてはさほど意見はないものと推量するが、基本金については企業会計にない思考なので、単純に企業会計方式への統一が図られるのであれば、その廃止がうたわれるであろう。
 今ここでは、基本金の学校法人会計における必要性はさておいて、学校法人会計の企業会計方式への統一について、公会計の企業会計方式への統一からその妥当性を探ってみたい。
 公会計に企業会計における損益計算書を導入し、その損益を持って公(地方自治体等)の活動の優劣を判定できるのであろうか。公会計と企業会計との統一論者の意見をみても、その通りとは述べてはいないようであり、その論は公(地方自治体等)が継続して生き延びていくならば、損益計算論理による計算書で最終的に益を計上すべきであり、その多寡をいっているのではないということのようである。しかしながら、損益計算書の本質は最終損益の多寡に企業の活動の全ての結果をみようということであって、その多寡をみない損益計算書など考えられないし、同じ(ような)計算書類を作成させておきながら、その読み方は異なるという論は、結局、公の活動と企業の活動の判定思考は異なることに繋がっているからであろう。
 このように公と企業の活動思考の根本が異なるのであるならば、異なる計算書類を認めることに問題があるのであろうか。というより、同じ計算書類の読み方が異なるのであれば、異なる計算書類を用意した方がよいのではないだろうか。少なくとも公会計への企業会計方式への統一などといってはいけないのである。
※ この点については、論者は企業会計と公会計とは同一とはいってないし、 また、計算書類の名前も違うとうであろう。であるならば公会計基準への 企業会計方式の導入などというべきでないというのが、私の主張である。
 私は今ここで、損益計算書方式が公会計にとってダメだと単にいっているのではなく、このような異なる基盤にあるのに、企業会計と計算書類が同一でないと会計の読者が公の会計を読むのに困難であるという意見に疑点を述べているのである。
 よって、これは基準についても同じであり、これだけの考え方で基準を企業会計と同一にという意見には同調することができない。
※ また、先の公益法人会計基準の改定においても、正味財産増減計算書にお いてストック方式を廃止しフロー方式のみにしたが、これは企業会計方式へ の統一の意図であろうが改悪である。
  公益法人には大きな法人から小さな法人まであり、また、本来的な公益法 人から似非公益法人まであるにも係わらず、特大の公益法人や似非公益法人 に目がいって企業会計方式への改訂になったのでないだろうか。
  正味財産の増減はそれのみで損益計算書の損益と同一であり、問題はその 形成の過程であろう。それを損益計算書方式に求めたのであろうが、考え方 としては誤っていない。が、それは多くの公益法人の実態をみていない。信 用が膨張している組織ならば、資金の流れと損益の形成の過程とがずれるで あろうが、信用がさほど利用されていない組織にとっては、資金の流れと損 益の形成とがほぼ同一であり、また、その整理調整は難しくない。よって、 損益の形成の過程は、資金収支の流れでもみることが出来るのである。勿論、 過程をみる前に結果については正味財産の増減として捉えていることは言う までもないであろう。
  また、正味財産増減計算書のストック方式は、正味財産増減の結果からそ の増減内容を検討する方式であり、どのような資産の増減からどれほど、ど のような負債の増減からどれほど、正味財産の増減に反映されたかをみるこ とによって、勿論、資金の増減結果がこれに付け加えられて、公益法人の活 動の良否が如何によく判断できたかを、改訂に携わった人は実感していなか ったのではないだろうか。この実感は、さほど大きくない公益法人の生のデ ータに触れてみられればわかるはずである。
2 基本金の廃止
 
 上記の検討によって、先ず企業会計方式云々によって基本金の廃止論議はないものと考える。以下の検討にあたって前提を置かして頂いた。
 先ず、基本金の組入れは現行の基準の計算書類にどのように処理されているかをみてみたい。
仕訳は、(借方)基本金組入額(消/収) ×× (貸方)基本金(B/S) ×× であるから、消費収支計算書、貸借対照表にその結果が反映されているのは確かである。そして、消費収
支計算書と貸借対照表の表示は次のようになっている。
    消費収支計算書






 






 
    貸借対照表
 帰属収入
 基本金組入額
 消費収入

 
××× 資産 ×××
△×× ※1 負債   ××
××× ※2 基本金・収支差額 ×××
 消費支出
 消費収支差額
 前繰消費収支差額
 次繰消費収支差額


 
×××  基本金
 次繰消費収支差額
 
×××  ※6
 ××  ※7
 
  × ※3
 ×× ※4
 
 
 ×× ※5
基本金の廃止によって、上の計算書類の※1〜※7が変わることになる。
※1がなくなることにより、例えば建物を取得するために紐付きで収納された資金が消費収入となるために、※2、※3が多く表示されることになる。ただ、これは多くなった(当年度)消費収支差額で建物取得を行えばよいと考えれば、それはそれで消費収支の理解として一つの考え方である。また、※4,※5は消費収支計算書としては付随情報であるので検討するのに及ばない。一方、貸借対照表の※6の基本金はなくなるのであるから、この額は※7に全額移行し、正にこの額は資産と負債との差額となり、財産目録の正味財産的になるのである。
 私は基本金の意義は特に貸借対照表にあり、基本金の貸借対照表計上によって貸借対照表における消費収支差額(正確には翌年度繰越消費収支差額)は、 学校法人が設立され学校教育のための活動を開始してから貸借対照表作成時点までの消費収入(消費収入累積額)と消費支出(消費支出累積額)の差額であって、その差額は消費収入と消費支出とによって具現された過去を一期間として見なした活動の良否の指標と考えている。
 貸借対照表における収支差額の「+」は過去の累積年度における「消費支出<消費収入」で、結果としてその活動は健全性を確保しながら「良」であったことを示し、「−」は過去の累積年度における「消費支出>消費収入」であって、結果としてその活動は健全性は確保しているが(健全性を確保した状態では)「不良」であったことを示すことになり、ここに貸借対照表に基本金を計上する意義があるといえる。
 したがって、基本金の廃止は、現時点における極めて財務健全性が高くあるべき学校運営のその度合いを計測できなくなるものと考える。
 基本金は、このような計算構造で学校法人は永続的に社会に存在せねばならないという理念を会計財務面からチェックするのであって、この廃止は、この永続性の理念を弱めることになるものと考える。 確かに企業にも永続性があるが、これは企業が永続して存在してほしいと考えているだけであり(又は、永続して存在する組織であるとしないと会計が成り立たないので会計を考える上での前提−公準としているだけであり)、社会的に永続性の理念があるわけではない。
※ これが学校経営の株式会社経営の問題にも関連するはずであるが。
  自由に学校経営に参入できるように、永続性を弱める(参入のための財務面  等での極めて高い装備を縮小する)ことを求めているのか、株式会社であれ  ば財務面等での十分な装備は受け入れるのか等を明らかにしてから株式会  社経営の問題を検討すべきであろう。
3 では基本金は
 2で述べたように、学校法人会計における基本金は、学校法人の活動の理念から重要な指標を示すものであり、私は、学校法人会計にとって大変有用なものと考えている。(他の会計にはない会計構造をつくった先人に敬意を表したい。)ただし、残念ながら現行基準での基本金は、2に述べたような理念の指標とはなっていない。そのための基準の改正は必要である。その内容については、月刊学校法人12年6月号「基本金と貸借対照表」、同14年6月号「経営の理念と基本金」等で論述したとおりである。