第三者評価機関における財務評価のあり方について
平成16年5月1日
公認会計士 山 口 善 久
 
まえがき
 
第三者評価機関による財務評価は、対象大学の序列をつけるのか、それとも、評価目標に達しているという認証をするのか。また、この評価は、相対評価なのか、それとも、絶対評価なのか、いずれであろう。
この問に対して通常、第三者評価は、序列評価でなく基準達成認証評価であり、そして、基準に適合しているか否かを評価するのであるから絶対評価が原則であるといわれている。
※ 仮に相対評価によるとしたら評価対象に序列を付けるのであるから、下位序列のものは全てが良であっても「不可」評価の可能性があることになる。
以上を前提において、第三者評価機関による財務評価のあり方について検討する。細部については更に詰めなければならない点は多々あるが、考え方の基本を述べるつもりである。
 
基準適合認証に当たって財務評価の目的は何か。
私は、その目的は大学の永続性の評価であると考える。経営の継続性、それが社会への大学の貢献であり、責務である。そして、私学の場合、この大学は学校法人と置き換えられる。
※ 教育そのもの良否をこの財務評価で計る考え方もあるが、それは第三者評価の場合、財務評価以外の評価があるのであるから、それに譲るべきである。
私は、その経営の永続性を拙書「学校法人の財務分析」で経営継続性と呼び、次の各項目の検討が必要であるとした。
@経営(教育)に必要なものが揃っているか。
A経営(教育)に必要なものが自己資金で調達されているか。
 自己資金で調達されていない場合は、それを返済可能か。
B経営(教育)に必要なものが、再調達できるか。
C経常的活動が支障なくできるか。
学校の活動は日々続けられていく。活動の結果として毎年、貸借対照表、消費収支計算書及び資金収支計算書が作成される。
貸借対照表は3月31日現在の財産維持状態を示し、消費収支計算書は貸借対照表に示された財産維持状態がどのような活動で形成されたかを物語り、そして、資金収支計算書はそれを資金の上から説明する。
ある時点の財産維持状態が不良若しくは通常であればその状態が良になるように、良であればより良になるようにするのが経営である。
どれほどの状態すればよいかは、経営に対する考え方(経営哲学)によるが、借入金の返済が確実に、さらに借入金を除く他の負債が滞りなく支払われていることは当然のこととして、でき得れば自己資金での資産の再確保が可能になるようになることが望まれる。
経営はこの資金確保が可能になるような計画を策定し、その実行可能性を探ることになる。
消費収入総額(又は帰属収入総額)はいくらに。
消費支出総額はいくらに。
消費収支計算書は、消費収入(又は帰属収入)を貸方に、消費支出を借方に表示し、その均衡の状態を示している。
[消費収入−消費支出]が消費収支差額であり、当該年度中における採算の余裕を示すものである。この余裕が貸借対照表分析で求められた確保資金額を満たせば、当該消費収支計画は経営にとってもよい計画といえるのである。
計画を策定しても実行可能性が薄ければ、その計画は机上のプランに終わってしまう。実行可能性は個々の計画のチェックと同時に最近の傾向を参考にする。最近の傾向は、計画策定時の重要なる参考事項である。
@収支差額はいくらか。
A消費支出には減価償却額はいくら含まれているか。
B消費支出には退職給与引当金はいくら含まれているか。
C消費収入(又は帰属収入)に臨時的なものはないか。あればどのようなものでいくらか。
D消費支出に臨時的なものはないか。あればどのようなものでいくらか。
[消費収支差額+減価償却額+退職給与引当金繰入額]が貸借対照表に計上された[確保すべき資産の額]をカバーしていれば、当該フローは良好であったといえる。さもなければ、消費収支差額がいくら黒字であっても年度の消費収支状況は良好であったとはいえないのである。
学校法人は、有形固定資産とキャッシュ(資金)、そして、借入金の固まりで、かつ、日常の活動は消費活動である。
経営の安定化と成長は、固定資産の維持充実と日常活動にあり、よって、その度合いが如何ほどにあるかをみることにある。
 
ではこれを具体的にどう見るのか。
 
2 借入金の返済可能性
 
学校法人は社会的存在である。したがって、経営の継続性の第一歩は借入金の返済である。
当該年度の借入金の返済を当該年度のキャッシュ・フローで賄えるか否か。賄えれば負債返済能力は「可」、さもなければ「不可」とする。
そして、ここでのキャッシュフローはいわゆる業務活動のキャッシュ・フローである。したがって、資金収支計算書における、借入金等収入、その他の収入(当該年度の活動を原資としないものに限る)、資金収入調整勘定、借入金返済支出、施設関係支出、設備関係支出、資産運用支出、資金支出調整勘定は、ここでのキャッシュ・フローの算出からは除かれる。さらに、学校法人の収入には通常の業務活動以外の特定目的に限られたものがあることがある。校舎建設のための寄付金や補助金等である。これらの収入もこのキャッシュ・フロ−から除く必要がある。
キャッシュ・フロ−を分子に、借入金返済額を分母にとると、この比率は100%以上が基準値であろう。
以上の検討は当該年度のものである。借入金が多いにも係わらずこの年度の返済額が少額に設定されていれば全体判定にはこの評価は繋がらない。よって、全体判定を次の考え方で行う必要がある。
キャッシュ・フローを分母に、借入金総額を分子にとると、この比率は借入金総額が一年間のキャッシュ・フローの何年分あるかを示すことになる。では、このときの基準値を何年分に設定したらよいのか。残念ながら私の手許にはこれを決定できる学校法人個別のデータがない。したがって、頭の中で考えるだけである(他の基準値も頭の中で考えただけであるが、それらの値は頭の中で考えたものであっても合理性があるものとして結論できる)が、ここでは仮値として15年を提案しておきたい。学校経営の資産更新のサイクルとからすると、15年は少し短いかもしれない。とすると、借入期間とする案もあるがこれは当該学校の個別事情を基準値に入れることになり望ましくない。
なお、負債の返済・支払可能性をみるに、企業分析では保有資産と負債の割合をみることもよく行われるが、私は学校法人の資産は企業とは異なり、負債の返済・支払の財源として適格性がないと考えている。処分の困難性である。
 
3 固定資産の再調達
 
経営の継続性を保つには固定資産の再調達が必要である。
経営(教育)に必要なものが再調達できるか。
自己評価においては、この命題は資金の蓄え状態を直に把握し評価すべきであると考えるが、第三者評価においては、より一般的な評価で十分と考える。
では一般的な評価としてあげられるものはどのようなものか。
貸借対照表における基本金の概念は「学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持すべきものとして」捉えるものである。そして、基本金の消費収支計算での有用性には疑問を持たれているが、貸借対照表における基本金の保持はそのまま経営の継続性に繋がるものとされている。ただ、基本金を理論通りの指標とするには、現行学校法人会計基準で認められている基本金の未組入れの調整が必要である。基本金の未組入れがある状態ではそれを組入れ状態にして、指標とする。
したがって、指標は、分母を[基本金+基本金未組入額]、分子を[基本金+翌年度繰越消費収支差額]とする。
基本金の基礎的考え方は基本金としての組入額を消費収支計算書に反映させながら、貸借対照表の純資産の部で基本金として捉えることにある。この状態で消費収支差額が「+」であれば資産の継続保有・再取得が可能とするのである。
貸借対照表に計上された基本金対象資産が減価償却計算により貸借対照表から減額されていく、基本金は、その減額価値を消費収支計算を均衡させることにより資金保持に置き換えていく計算構造をとっているのであるから、この率は100%以上を基準値とすべきである。
しかし、100%以上を基準値にすると、将来資金の確保と同時に現に保有している基本金対象資産も借入金等を「0」とした全額自己資金での経営を要求することになるので、第三者評価としては厳しすぎるかもしれない。
では、何%を基準値として定めるべきか。これについても私は個別のデータをもっていない。しかし、最低限の経営維持を図るためであれば50%は他人資金でもよいとするのも一つの考え方であるかもしれない。とすると、ここでの基準値は仮値50%以上ということになる。
さらに、各学校法人の現状をみるに、多分新しく取得した固定資産は全て(更新部分は除いて)基本金対象資産として捉えられてきているのではないだろうか。果たして、その基本金対象資産が今後とも本当に経営(教育)に必要な資産なのであろうか。これについての検討も必要である。検討の結果、現に捉えている基本金対象資産が本当に経営(教育)に必要な資産でないのであれば、学校法人会計基準の定める処理は処理として将来の再取得資産からは除くべきである。
 
4 日常活動の余裕性
 
これをみるために用意されている計算書類が、消費収支計算書であり、その指標は「消費収支差額」である。
消費収支差額が「−」であれば「不可」、さもなければ「可」。
したがって、消費支出の消費収入に対する割合が「100%以下」であれば「可」というべきであろう。
第三者評価が基準達成評価であることからして、この率が100%以下であることをもって基準達成とし、この率がいくらであるということを検討する必要はない。ただ、この認証評価における基準をいくらにするか。すなわち、110%ではいけないのか、120%ではどうか等、種々意見があるかもしれない。しかし、判定が第三者からみての経営の継続可能性の判定なのだから、100%をもって基準とすることには問題ないものと考える。
消費収支差額をみる場合、現行学校法人会計基準は難しい問題を抱えている。基本金組入額である。よく知られているように帰属収入から基本金組入額を控除した消費収入は、学校法人の財務分析においてその妥当性に疑問が付され、この消費収入から算出される各種比率等は全くと言っていい程用いられていない。そして、実務はこの消費収入に替えて帰属収入を用い、各種分析を行っている。という事情から、第三者評価においてもここでの消費収支差額比率を算出するためには、その分母に帰属収入を用いざるを得ないものと考える。したがって、「消費支出/帰属収入が100%以下」と基準値が置き換わることになる。
また、第三者からみる当該学校法人の経営継続性なのであるから、当該学校法人特有の会計処理によってその影響が大きいものについての調整をどうするかという問題がある。
第三者評価は経営の継続性が「可」「不可」を判定するのであるから、通常の分析と異なって、この点の調整は妥当である。調整は要せずという考え方も有力な意見だと思うが、可・不可の判定を下すのであるから、各学校法人同一の条件での判定であるべきものと私は考える。
特有会計処理といっても、それは会計処理に当たっての特有事項であって、納付金が1人当たり60万円の学校法人と100万円の学校法人があるからといって、また、給料が1人当たり1000万円の学校法人と600万円の学校法人があるからといって、これを同一にして割合を算出せよということではない。これらの法人間の違いは割合算出のために与件であって調整すべきではないし、調整すべきであるという理由も見いだすことはできない。
では、調整すべき会計処理事項とは何か。ここで調整事項としてあげるべきものは、金額重要性があるものに限って、@減価償却額、A退職給与引当金繰入額であろう。
@ 減価償却額
減価償却額の算出は、見積計算である。そして、学校法人会計基準においては、この見積計算の基礎となる耐用年数や残存価額について一定の縛りをおきながらも各学校法人の決定に委ねている。したがって、各学校法人の減価償却額は異なった見積計算において行われていることになる。学校法人が自分の判断において決定したのであるからそれはそれで与件とすべきかもしれないが、その金額重要性からしてやはり基準耐用年数や基準残存価額を定め調整事項とすべきである。当然、基準値より不利な耐用年数や残存価額で減価償却計算を行っている大学は、消費支出比率が100%以下であればこの調整は必要ないことはいうまでもない。
A 退職給与引当金繰入額
学校法人会計における退職給与引当金繰入額は、通常、期末のおける退職給与の要支給額を計算し、それに50%や100%を乗じて算定している。50%を乗じる場合と100%を乗じる場合では、その差異額は大変大きい。
基準の割合を定め、それへの調整をすべきである。ここでは経営の安定性を保守的に捉え、100%を提案しておきたい。
なお、退職年金制度を有している大学がある。この大学における退職年金にかかる負債認識やこの負債認識に伴う費用処理についてはどうするのか。この統一性にも目を向けなければならない。
※ 通常財務分析というと、人件費比率だ、経費比率だと様々な比率が取り上げられる。しかし、私は、ここでの評価にこれらの比率を採用していない。第三者評価の目的を経営継続性においているからである。限られた財源を人件費に使用するのか、経費に使用するのか等は、経営の考え方であり、経営継続性という戦略に基づくものである。経営は、経営継続性を図るために人件費に使用する財源を高め経費に使用する財源を減ずるかもしれない。戦略を支える戦術である。よく人件費比率は低い方がよく、経費比率は高い方がよいといわれる。教育に投下する経費が大きければ教育にプラスと考えているからと思うが、とすれば、よい教員を集めて(当然によい教員を集めるのであるから人件費単価は大きくなり、人件費総額は大きくなる)、人による教育を高める教育方法は悪いのであろうか。多分、その方法もよい教育を行うための一方策であるというであろう。したがって、これらの比率で教育の良否の判定はできないのであり、経営継続性の上からは両者ともに低い方がよいのである。そして、この高低は消費収支差額比率に直に響くのである。分析に当たってはそういう考え方もあると一つの考え方を示しているに過ぎず、第三者評価のような絶対判定を行うためには有用性はない。それにもかかわらず通常、これらの比率を財務分析で取り扱うのは、これらの比率を突破口として、消費収支差額比率を低める方策を探るためである。
 
5 総合評価
 
(1) 借入金の返済能力の評価
@ 業務活動のキャッシュ・フロー(資/収)/借入金返済額(資/収)≧100%
A 借入金総額(B/S)/業務活動のキャッシュ・フロー(資/収)≧1500%(15年)
(2) 経営(教育)継続必要資産の再調達能力の評価
B 基本金+翌年度繰越消費収支差額(B/S)/基本金+基本金未組入額(B/S)≧50%
(3) 日常活動の余裕性の評価
C 消費支出(消/収)/帰属収入(消/収)≦100%
以上が経営の継続性を判断する指標の纏めである。それぞれの算式における要素の調整についてはここに再掲していないので、それぞれの項を参照して頂きたい。また、AとBの指標値の妥当性について慎重な検討を要することは既に述べたとおりである。
次の問題は各指標を取り上げて、これを纏めた総合評価をどうするかである。(1)、(2)及び(3)のいずれをも「可」とされる学校法人は当然に総合評価は「可」であるが、(1)、(2)及び(3)のいずれかに「可」と「不可」が混在する学校法人の総合評価はどうすべきであろうか。
総合評価に当たって、(1)、(2)及び(3)を相対評価し、その加重をつけるという考え方もある。しかしながら、(1)及び(3)についてはこの判定が特段によかったからといって他の判定をカバーする性格のものではない。ただ、(2)については法人が誕生してから判定時点までの活動が凝縮されており、この評価がよければ(1)及び(3)の事後の回復を待ってという判断を下せる復元力がある。では、この復元力をどの程度認めるのか。この指標の確定は難しい。でも、(1)(3)の値が基準値を大きく割らない限り、総合評価は「可」としてもよいと考えるが、この程度を確信を持っていえない。個別のデータをもっていないからである。
なお、これらの判定に当たっては、過去の数値(時系列評価)も十分その基礎に含めるべきことは確かである。
※ 「可」「不可」で検討をしてきたが、「不可」は「可でない」という意味であって、そういった意味では黄信号のものも多く含まれるであろう。
※ 過去数値の重要性
(1)の借入金の返済可能性、(2)の固定資産の再調達力及び(3)の日常活動の余裕性を単年度の数値で判断したが、これを他年度の数値も取り入れて判断することも重要である。いわゆる時系列分析である。たとえば、大学は4年生であるから4年間の数値を時系列でみて判断を下すのである。この視点も是非判断基準に入れたいものである。