資産価額の減少と基本金取り崩し(メモ)
平成15年12月10日
公認会計士山口善久
まえがき
基本金の見直しに当たり、対象資産の減価償却額計上に伴い、当該金額相当額の基本金の取崩益を計上する主張が見られる。
が、どうも、その主張は減価償却額の計上による対象資産の価額減少に伴って、簿記的に単なる基本金を資産の対照勘定として捉えて、同額の基本金減少の処理をして、それを取崩益と認識しているようである。だが、基本金は対照勘定であるとして、基本金の取り崩しをそう簡単に処理できるのであろうか。
ここでは、そのような観点から、基本金の取崩益の計上を検討してみたい。
1 紐付き収入による固定資産取得
先ず最初に、基本金取崩益の計上が最もよく説明できるケースについてみてみよう。
A校は図書館機能の充実を図ったが、毎年の消費収支はギリギリなのでこの消費収支に影響させないように、寄附をOBに呼びかけ、OBからの寄附金での図書館建設を計画した。A校の理事Bは、すぐOBのC氏にこの話をしたところ、C氏は即座に建設資金全額の寄付を申し出てくれた。ただ、C氏はこの寄付は図書館建設計画への申し出であるので、この寄付を経常支出へ充当しないように。そして、図書館は大事に使用・維持して貰いたいが、遠い将来での老朽化にあたっての再建築の有無については特別の条件を付けないとの話をされた。
@寄付金の受け入れ・図書館の取得
(借) 現 金 100 (貸) 寄付金 100
(借) 建 物 100 (貸) 現 金 100
A寄付金の消費収支への影響の排除
C氏の寄附条件が図書館建設で毎年度の消費収支に影響を与えないようにとのことなので。
(借) 寄付金 100 (貸) 基本金 100
‖ (正味財産)
現行基準では基本金組入額
B @Aの直接法
(借) 現 金 100 (貸) 基本金 100
(借) 建 物 100 (貸) 現 金 100
このBの仕訳も@Aの取引もともに、寄付金受入を消費収支に影響させないため、寄付金を企業会計的にいうと資本取引として捉えたものである。
C 減価償却額の計上
(借) 減価償却額 2 (貸) 建 物 2
この仕訳により、減価償却額の2だけ消費収支は悪化する。とすると、図書館建設は経常収支に影響させないという寄附条件とは齟齬する。したがって、資産の減少額2に対応して収益を計上する。
(借) 基本金 2 (貸) 基本金取崩益 2
この仕訳により消費収支は減価償却額が計上されなかった状態に戻り、図書館建設と日常の消費収支計算とは完全に切り離され、図書館建設の当初の目論見は計画通りに進行していくことになる。
図書館取得時の基本金(貸借対照表貸方への計上)と基本金取崩益(消費収支計算書貸方への計上)とが、よく説明できる事例である。
2 通常の固定資産取得
次に、日常よく見受けられる固定資産取得について検討してみたい。建物の取得で説明してもよいのだが、備品取得での説明の方が何となくシックリくるので、備品取得で説明したい。
@ 備品の取得
(借) 備 品 100 (貸) 現 金 100
備品取得時あたっては紐付き収入はないので、紐付き収入の仕訳はない。
A 基本金の組入れ
ここで、基本金の組入れをすると、次の仕訳となる。
(借) 基本金組入 100 (貸) 基本金 100
1での検討によると、取得源泉である寄付金について消費収入処理か、正味財産(基本金)処理かを問うているのに、ここでは寄付金受け入れのような該当収入がない。にもかかわらず基本金組入の処理をするので、それが消費収支に影響し、経営判断が出来ないというのが、基本金に対する現時の批判である。この批判に対しては、正にその通りと答えざるを得ないので、ここでのケースに基本金の設定を求めてはならない。
B 減価償却額の計上
したがって、資産取得後の減価償却額はそのまま消費支出となり、当該減価償却額を負担しての消費収支均衡経営を学校は目指すのである。
3 法人設立時の固定資産取得
最後に基本金についての理解が最も難しいケースについての検討であるが、取り敢えず、学校法人設立時の固定資産取得について、次いで、学部増設等における固定資産取得についても触れてみたい。
@ 学校法人設立−建物取得
(借) 建 物 100 (貸) 基本金 100
‖
正味財産
A @の仕訳の思考を、仮の仕訳を加えて再仕訳すると、次のようになる。
(借) 現 金 100 (貸) 寄付金 100
(借) 建 物 100 (貸) 現 金 100
(借) 寄附金 100 (貸) 基本金 100
‖
この場合は@とは異なり、消費収支計算がないので基本金組入とは出来ない。
B 減価償却額の計上
(借) 減価償却額 2 (貸) 建 物 2
ここで、減価償却額と同額の基本金の取崩益を計上すると、1のケースと同様になる。しかし、この3のケースは1のケースとは状況が異なる。
当初財産の取得は法人成立の条件であり、かつ、学校制度は組織の永続性を求めている。減価償却額と同額の基本金取崩益の計上は、消費収支均衡の計算に減価償却額を反映させないこととなるので、組織の永続性が保てないことになる。したがって、会計的には減価償却額を消費支出として捉え、これを帰属収入で賄うことによる消費収支計算を求め、減価償却計算の資金留保機能を働かせて、永続的な財産維持を図ることが望まれる。正に、この考え方を導入した学校法人会計基準の叡智である。
要は、「減価償却額を負担して消費収支均衡を目指します」という約束で法人設立をしたということである。
では、学部増設等のケースではどうであろうか。
現在、学部増設にあたっては法人成立までとはいわないまでも、学部が永続的に維持されるようにとの観点から財産保有をその条件としている。
この財産保有は、法人設立の際の思考と何ら変わらない。よって、その会計処理は同一であるが、法人設立時とは異なり若干の説明を要するであろう。
イ 取得源泉が寄附によるものは、法人新設と同じ。
ロ 取得源泉が従来よりの獲得剰余である場合は、正味財産内での振り替え処理となる。 (借) 剰余金 100 (貸) 基本金 100
※消費収支計算書を通過さす場合は、若干の工夫を要す。
ハ 取得源泉が借入金によるものは基本金の未組入であり、その組み入れ時点は借入金返済財源の調達時となる。源泉は寄付金による場合もあるし、毎期の消費収支差額である場合もある。
なお、ここで保持財産として何を求め、何程の額を求めるかは、設置基準が定めるべきであり、会計基準が定めるべきものではない。規制緩和を背景にして、ここでの考え方を否定する意見もあるが、学校の永続的維持は、教育が国家百年の大計であるのならば絶対必要である。同時にこの問題を捨象して、学校の株式会社経営をとなえる意見もあるが、これは全く次元が異なる問題である。
学校の永続的維持は、その設置形態が株式会社であろうが、学校法人であろうがいずれの体制でも必要である。株式会社だから、学校法人だからといって異なった考え方を出すべきでない。株式会社による学校経営を主張している人たちは、本来は学校設置基準の定めの緩和を求めるところを、直に会社経営に飛躍させているのでないだろうか。仮に、この点の緩和が大幅に認められれば、株式会社経営論者も多分、その多くが学校法人経営での学校設立を容認するのではないだろうか。
また、株式会社設立に際し、1円会社が認められる時代なのだからという論にも首肯できない。資本を保有しない会社の設立は資本を要しない会社に当て嵌めているのであって、充分な資本が求められる会社の設立に勧められる制度ではない。蛇足ながら。
また、株式会社への経営委託といわれるが、これは運営委託であって、最後の経営責任は委託先にあるので運営委託というべきであろう。これも蛇足。