預金保険制度における名寄せ
平成14年3月8日
公認会計士 山口善久
1 概要
預金保険制度によると、金融機関が破綻したときに預金保険機構は、1預金者ごとの預金額を迅速に確定する必要があります。
それは、保険によって保護される預金の限度額が、1金融機関ごとに預金者1人当たり元本1000万円(それにその利息額を加算する)とされているためです。
名寄せは、預金保険機構が行うことになっているのですが、預金者データは破綻金融機関から提出されるため、名寄せの実際は破綻金融機関に委ねられているようです。
名寄せに当たって、法人、個人、「権利能力なき社団、財団」は、個々に1預金者とされ、それ以外の任意の団体は、その構成員が1預金者として扱われます(預金保険機構−預金保険制度Q&AV−8)。
2 1預金者としての判定
学校法人の場合、法人の周辺若しくは内部に様々のグループがあるので、それらのグループがどのように扱われるかが色々と論じられているようです。
そのグループが、学校法人と同一とされるか、「権利能力なき社団、財団」として学校法人とは別の1預金者とされるのか、あるいは、任意の団体として各構成員ごとに別個の1預金者として扱われるのかで、そのグループが保有している預金の保護の状況が異なってきます。
ここで一つ二つ具体例を挙げて名寄せを検証してみたいと思います。
<預金保険制度Q&AV−8>
Q 名寄せにおける「同一人」の捉え方について、どのように考えればよいのですか。名寄せ上、1預金者として取り扱われる「権利能力なき社団・財団」とは、具体的にはどのような要件を備えたものが該当するのですか。
A 1.個人、法人、「権利能力なき社団・財団」は、個々の1預金者とします。それ以外の任意の団体は、1預金者として捉えないため、各構成員の預金等として分割され、各個人の預金等と名寄せされます。
2.「権利能力なき社団・財団」に該当するためには、一般的には、団体として組織され、規約等運営方法が定められているなどの要件が求められていると言われていますが、個々のケースについてその実態を見て判断されます。具体的には、判断しようとする団体に規約等が存在しており、かつ、その実態においても、
@「権利能力なき社団」については、「団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していること」(最高裁昭39.10.15判決)
なお、「権利能力なき社団の資産は、構成員に総有的に帰属するものであり、その構成員は当然に共有持分権、分割請求権を有するものでない」(最高裁昭32.11.14判決)とされており、そもそも規約上に共有持分権、分割請求権が記されている場合には「権利能力なき社団」は該当しないものと考えられます。
A「権利能力なき財団」については、「個人財産から分離独立した基本財産を有し、かつ、その運営のための組織を有していること」(最高裁昭44.11.4判決)
との要件を満たすかどうかによって判断されます。
3.なお、法人格を持たない団体が、「権利能力なき社団・財団」とそれ以外の任意の団体に該当するかについては、当該団体と取引を行っている各金融機関が上記基準により個別に判断し、これに基づいて名寄せデータの整備が進められています。
3 PTA、後援会、同窓会
まず、PTA、後援会や同窓会についてみてみましょう。
役員会などの組織があり、規約にのっとって運営されている団体は「権利能力なき社団、財団」とみなされ「1預金者」とされるので、PTA、後援会や同窓会は、正にこのケースに当て嵌まるのではないでしょうか。
※ 「役員会などの組織があり、規約にのっとって運営されている団体は『1預金者』とみなされる」(平14.2.12日経新聞、同趣:前出Q&AV−8)
※ 法人格をもっているPTA、後援会や同窓会は、検討するまでもなく法人として「1預金者」です。
※ ただし、これらの団体の会費等を学校法人が代理徴収している場合に、徴収後これらの団体に引き渡してないため学校法人に未だ留まっているときの預金等は、学校法人の預金として名寄せされるものと考えます。これは次に検討する考え方と同じで、引き渡し前の預金は学校法人の管理下にあるので、引き渡しまでは他団体のものでないとするものです。
4 修学旅行積立預金やこども銀行の預金
Q 修学旅行のために積み立てられている預金等や、児童生徒等の教育の一環として実施されている「こども銀行」が取りまとめて金融機関に預けている預金等の名寄せはどのような扱いになるのですか。
A 修学旅行のための積立てや、「こども銀行」などは任意の団体として扱われます。
したがって、修学旅行のために積み立てられている預金等や、「こども銀行」預金等は、児童生徒の代表者名義による預金等になっていても、それ自体を独立の預金者として扱うのではなく、構成員の預金等として分割され、それが各人の他の預金等とともに名寄せされることになります。
上記は、預金保険機構のQ&AV−16の記載です。
このうち「こども銀行」は、そこにも記されていますように児童生徒の代表者名義で金融機関に金融機関に預け入れてあり、かつ、児童生徒の保護者も各自の預け入れ金を学校法人に預け入れているとは認識していないでしょう(よって、学校にとって預り金でない)から、この取扱いに異議はありませんが、修学旅行積立預金については、疑問があります。
このQ&Aが作成された背景を知らない筆者が推測するのはあまりにも大胆すぎますが、あえてこの設問の背景を探ると、公立学校の修学旅行積み立てを念頭に置いているのではないでしょうか。
預り金、特に修学(研修)旅行預り金については、私立学校では従来から様々の制約があります。
日本公認会計士協会は、昭和53年7月10日付け学校法人委員会報告第24号で、修学旅行預り金について次のように定めています。
「修学(研修)旅行預り金については、学校法人会計に含めて経理するものとする。従って、学校法人が管理上の都合により特別会計として区分経理している場合であっても、預り金の収支として一般会計に合併したうえで、計算書類を作成しなければならない。」
「修学(研修)旅行預り金は、学校が修学(研修)旅行預り金として収納したものであって……」としているこの文言は、次のことを明らかにします。「学校が………収納した」が故にこの金銭は学校法人の「預り金」すなわち「負債」であって、この受け入れた金銭は学校法人のものであるということです。要はここでの問題は、受入金銭が預り金であるか否かであって、それ以外の検討は要しないということです。仮に修学(研修)旅行積立にかかる金銭が預り金でありながら、学校法人とは別人格、若しくは任意の団体のものであると認定ができるのであれば、他の預り金についても同様の検証が求められることになります。
この金銭が、学校のものであるか否かは次のことに影響が出てきます。
学校がこの金銭を預金等として保有している途上、何らかの理由でこの預金等に瑕疵が生じた場合、すなわち、盗難、紛失、運用失敗等があった場合、学校は負債を認識しているのですから、瑕疵金額を預け人の児童生徒の保護者に保証しなければなりません(預け人である保護者は、学校法人がどのように管理しているかは関知していないのですから、預金等の瑕疵、そして、その保証等については全く意識しないという方が正確な表現かもしれません。そして、当然のことに瑕疵補填責任は学校に求められるはずです)。更に預金名義を学校でなく、保護者等の名義にしてあってもこのことは些かも変わりません。正にこのことから、先の委員会報告第28号が生まれたのです。
また、この委員会報告の趣旨はひとり日本公認会計士協会のみでなく、私立学校の所轄庁である都道府県等も同意してこのような考え方での指導が学校に行われているのが現状ではないでしょうか。
よって、修学旅行預り金に対応する積立が預金とされ、その名義が学校以外のものであっても、この預金の名寄せは学校法人のものとして取り扱われるものと思われます。
※ 学校法人によっては、預り金に対応しての積立預金等を明らかにしてない、すなわち、他の預金等に包含して管理している場合もあると思われますが、この場合は当然学校法人以外の名義での名寄せの問題は検討の余地がないものと考えます。また、このような資金管理が実際は多いのではないでしょうか。
では、これを回避する手段はないでしょうか?
学校が、修学(研修)旅行積立預金を「任意の団体」として認定してもらいたいのであれば、この修学旅行積立預金が任意団体として認定してもらえるような態様を整えることが必要ではないでしょうか。したがって、積み立てを保護者に要請する際に学校法人に預け入れるのではなく、任意のグループに積み立てることを明らかにし、そのグループの代表者名での預金等とすべきでしょう。学校法人は代理徴収するということになるのです。このような積立方法を保護者が容認するか否かは疑問ですが、PTA等と同じ位置づけにするのです。この積み立てはPTA等のように総会等の組織がありませんので「任意の団体」として扱われ、個々の構成員の預金等として名寄せされるものと考えます。このような手法は、積立金銭の受け入れ主体が当初より明らかにされ、それを保護者が承認して金銭が積み立てられる(保護者は学校でなく任意団体に預けている)のですから、その金銭の保管責任等は学校から離れます。したがって、委員会報告第28号にも違反することなく、学校法人とは別の名義での金銭管理が可能になるでしょう。もちろん、学校はこのグループに代理徴収した金銭等を引き渡した後は「預り金」としての負債を認識することはありません。
ただこの場合、名寄せは個々の構成員の預金として名寄せされるのですから、預金の内訳を詳しく個々の構成員に報告しておかないと、名寄せされる個々の構成員にペイオフ解禁の余波が及ぶことになります。こういった意味から、更に、個々の構成員の名寄せ名義は、児童生徒の父親にするのか、母親にするのか、祖父にするのか、若しくは祖母にするのか、これらも明らかにして置かなければならないものと考えます。ペイオフ解禁とは異なった様々の業務が生じてきますが、果たしてどちらが学校法人にとって益があるのでしょうか?