学校法人会計基準の在り方に関する検討会について
                        平成15年8月
                           公認会計士 山口善久
 学校法人会計基準の在り方に関する検討会(文部科学省)がスタートするようである。これによって、現行の学校法人会計基準が如何様になるかが定まってくるのであろう。発足にあたって若干の感想を述べてみたい。
 学校法人会計基準検討の起因は種々あろうが、その一つに平成14年12月の規制改革の推進に関する第2次答申に係る閣議決定「公益法人会計基準の見直しについては、企業会計基準の大幅な改訂等を踏まえ、総務省の研究会が平成13年度に中間報告をとりまとめ、今後新たな基準が策定される予定である。したがって、公益を目的とする学校法人においても、事業活動の透明化、効率的経営に資するよう、新しい企業会計基準を取り込むことについて、学校の特性を踏まえつつ早急に検討すべきである。」(平成15年3月再改訂−同趣旨)が、強く影響しているものと推定する。
 このような背景を受けて、表に出てくる学校法人会計の改訂に係る論評には、学校法人会計基準に企業会計の考え方を取り込むことが、当然の課題であるかのようにするものが多い。
 では、企業会計の考え方を学校法人会計に取り込むとはどのようなことを念頭に置いているのであろうか。
 ハッキリ言って、私にはよく分からない。仮に公益法人会計基準の改訂のように、その内容が財務書類の体系の見直しが主で、現行の学校法人会計基準もそうせねばならないというような内容であるのであれば、提言されていることは的を射ているかもしれない。
 我が国の企業会計は、平成10年3月「連結キャッシュ・フロー計算書の作成基準の設定に関する意見書」を企業会計審議会が公表し、財務諸表体系を従来の貸借対照表、損益計算書の2本立てから、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書の3本立てに切り替えた。しかしながら、学校法人会計基準は昭和46年4月の制定以来、消費収支計算書、貸借対照表、資金収支計算書の3本立てである。消費収支計算書は当時の解説書によるまでもなく企業会計の損益計算書を基にしたものであり、貸借対照表は損益計算書と対のものであり、そして、資金収支計算書は通常概念の収支の計算書である。その結果、学校法人会計基準の計算体系は、次のように構築されていると、当時の解説は述べている。
○ 消費収支計算.・貸借対照表計算
○ 資金収支計算
 よって、企業会計とは異なりその体系が2元体系をとっているので、制度当初から学校法人会計基準は特殊な会計であるといわれてきた。そして、理解しにくいと。基本金概念があることもあって、いくら特殊会計でないといっても理解してくれず、かつ、一旦定着したこの観念は拭えなかった。だが、既に上に述べてきたように何も学校法人会計基準が特殊であったのではなく、日本の企業会計が国際会計基準とかけ離れていたのである。日本の企業会計が特殊であったのである。
 またここでは、学校法人会計基準の資金の範囲は「現金及びいつでも引き出すことが出来る預貯金」とされ、平成10年のキャッシュ・フロー計算書の資金の範囲「現金(手許現金及び要求払預金)及び現金同等物」とほぼ同じものであることも付言しておかなければならない。
 このようにみてくると決して学校法人会計は、企業会計の後塵を拝しているのではなく、企業会計の前を歩んできたのであり、今回の見直しに携わる方々は自信を持って学校法人会計の先進性を誇ってもらいたい。日本における会計のうち最も進んだものが企業会計だという証はどこにもないにもかかわらず、企業会計以外の分野で会計基準の話が出てくると企業会計の考え方を取り込んでとなるのは、正に偏見以外にない。
 社会経済情勢の変化に伴い、会計のそれらに向かう態度も変えていかねばならないものもあるのは当然である。学校法人会計にもこの変化は必要である。しかし、それは、学校法人という特性を失っての会計の理解と変化であってはならないことは言うまでもない。全てを企業会計の対処法にそのまま従うことは決してしてはならないことを指摘しておきたい。
 会計の目的が異なれば、経済事象への対応は異なる。学費決定のための会計と外部報告のための会計とはその会計は異なり、企業においても価格決定のための会計と外部報告のための会計とは会計が異なる。そして外部報告のための会計であっても、その報告の見据えるものをどのように確定するかによって会計は異なるのである。
 日本の会計と国際的な会計とのギャップについて、国際会計基準委員会(IASC)の議長を務められた白鳥栄一教授は、その著「国際会計基準」で
「会計の目的が異なれば、それを実現するための会計基準も違うのは言うまでもない」として、さらにそれに続けて現在の国際会計基準の会計目的について、
「国際会計基準では会計の目的をどのようにとらえているか。基本的には次のような立場をとっている。
 企業にとっての利害関係者とは、投資家、債権者、株主、従業員、取引先、金融機関、消費者、地域社会、国家など多岐にわたる。それぞれの立場や目的から企業情報を利用する。ただし、何らかの経済的な意志決定を行うために財務諸表を利用するという点では、すべて同じだ。国際会計基準はこの点に着目し、会計の目的を、「利害関係者が経済的な意志決定を行う際に必要な情報を提供すること」と規定している。そのうえで「必要な情報」とは、「投資家(株主)が必要とする情報」であると位置付けている。
 利害関係者の中で、もっとも大きな経済的リスクを負っているのは投資家である。投資家は自己責任の下に投資を行い、100%のリスクを負っていることから、他の利害関係者よりも多くの企業情報を必要とする。したがって、投資家向けに作成された財務諸表には、広範かつ充実した内容が盛り込まれ、、他の利害関係者が必要とする情報の大部分が包含される、と考える。
 国際会計基準が「投資家が必要とする情報」を重視しているのは、このような理由からだ。」(前書p29~p30)
 とすれば、学校法人会計には投資家保護の会計目的はない筈である。学校法人会計の見直しにあたって、学校法人の特性をよく理解して………企業とはその活動目的が異なる組織体であるということをよく認識して………、学校法人会計の是とすることは是、学校法人会計の非とすることは非とした態度(これを裏からいうと、企業会計の是とするところは是、企業会計の非とするところは非とした態度)を持って貰いたいものである。
 さらに、学校法人の我が国における企業に比しての規模の小ささについても充分考慮して見直しに取り組んで貰いたい。
 例えば我が国の大学法人をとってみても1法人あたりの平均教職員数は多分500人ちょっとくらいかと推定する。当然、大学法人以外の法人の教職員数はもっと少ない。企業でいうと中小企業(もっと率直にいうと小企業)レベルではないだろうか。こういうと、何、ダブル・スタンダードか。罷りならぬという公認会計士協会の声が聞こえてきそうであるが、何もダブル・スタンダードを求めるわけではない。その処理(現在学校法人会計では採用していないが企業会計では既に採用している処理方法で、学校法人会計でもその採用が望まれる処理方法−以下同)を忠実に実行しないと目的を達成できないというものは別にして、企業会計における処理を学校法人会計に導入するとしたら、手間と費用がかかるものについては簡略化方式を考慮して貰いたいといっているだけである。仮に、退職給付会計を学校法人会計に導入するとしたら、原則方法でなくても手間と費用をかけないで目的を達成できる手法はないか、代替方法はないかを検討して、その方法も認容して貰いたいということである。
 次に、基本金について。企業会計の資本との対比で検討されることになろうか。でも、学校法人会計には資本の概念はない。とすると、公益法人会計基準のおける基金概念との比較検討だと思うが、昭和63年の学校法人会計基準の改定にあたっての学校法人会計基準第30条第1項第2号「………………取得した固定資産又はこれらの目的のために固定資産を取得すべきものとして収受した金銭その他の資産の額」が、何故改訂されたか等を念頭に置いて充分なる検討を行って貰いたい。
 最後に国立大学会計基準について。識者の中には同じ学校からだということからか、これへの右へ倣え説もあるようだが、この基準はあまりにも国立学校の特性に係る処理が多すぎる。私は、この基準との比較検討はあまり参考にならないと考えているが、仮に検討をされる場合は、慎重にお願いしたい。
 他にもいろいろあろうが、学校法人会計基準が制定されて以来長い間学校法人を支えてきた基準である。企業会計の考え方を取り込むというお題目に惑わされることなく、学校法人会計に携わってきたものの自信を持って見直しをしていただきたい。