基本金と貸借対照表
公認会計士 山口善久
平成12年4月28日
1 消費収支計算の目的
基本金には二つの面がある。一つは、損益計算書における基本金、二つは、貸 借対照表における基本金である。
学校法人会計基準(以下「基準」という)第15条(消費収支計算の目的)をみてみ ますと、「学校法人は、毎会計年度、当該会計年度の消費収入及び消費支出の内容 及び均衡の状態を明らかにするため、消費収支計算を行うものとする」と消費収 支計算の目的について定めています。消費収支計算は、消費収入と消費支出とを 対応させて、その均衡状態をみていこうといっているわけです。
消費支出という言葉は、ある会計年度における学校の中で教育活動を行うため に消費されるサービス等を表します。したがって、その中には、人件費、消耗品 費、光熱水費、修繕費というようなサービスがそれを構成します。学校教育は、 このようなサービス−用役を費消していくことによって押し進められていくので す。
そして、繰り返しになりますが、消費収支計算は、このような消費支出をどの ような収入でどの程度賄っているかをみていくことを目的にしています。
基準第15条では、この消費支出を賄う収入を消費収入といっていますが、それに続く基準第16条では、消費収入は、帰属収入(学校法人の負債とならない収入)から基準第29条及び第30条により基本金に組み入れる額(基本金組入額)を控除して計算するとされています。
この定めをそのままに読みますと、帰属収入から基本金組入額を控除した残額が消費収入ということになり、消費収入は残高概念となってしまいます。このように消費収入を残高概念であると認識しますと、この残高概念である消費収入と消費支出を対応表示した消費収支計算書は何を物語るのかが疑問となります。
そこで、私は、この定めには一つの前提が置かれているものと考えています。
それは、帰属収入から控除する基準第29条及び第30条により算定される基本金組入額は、消費支出に充ててはならない収入であって、これによって基本金組入額が消費収支計算の目的を壊すことがないという前提です。
したがって、先の控除計算は形を変えて、帰属収入は消費支出に充ててはならない収入と消費支出に充てる収入とで構成されており、このうち消費支出に充ててはならない収入は消費収支計算からは除外し、消費支出に充てる収入のみを算出し、これを消費収入と呼び、消費支出と対応表示をなすものと理解することになります。
2 貸借対照表における基本金
第30条に定められている基本金は、第1号、第2号、第3号及び第4号とありますが、このうち代表的な基本金は第1号に定められている基本金ですので、以下の検討は第1号基本金で行っていきます。
第30条第1項は「学校法人が設立当初に取得した固定資産(……略……)で教育の用に供されるものの価額又は新たな学校の設置若しくは既設の学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために取得した固定資産の価額」を「基本金に組み入れるものとする」とし、取得固定資産の取得額と同額を基本金として貸借対照表の貸方に計上することを求めています。
この貸方への「基本金」計上は、先の消費収支計算における帰属収入からの控除額と表裏の関係で、したがって、次のような仕訳になることはご承知のとおりです。
借方 基本金組入額 ×× 貸方 基本金 ××
すなわち、基準は理念として、固定資産は帰属収入のうちの消費支出に充ててはならない収入を原資として取得され、よって、その原資−すなわち取得相当額は帰属収入から控除し、貸借対照表の貸方に基本金として処理することとしたのです。この帰属収入からの控除、並びに、貸借対照表への基本金計上によって、貸借対照表における消費収支差額(正確には翌年度繰越消費収支差額)は、 学校法人が設立され学校教育のための活動を開始してから貸借対照表作成時点までの消費収入(消費収入累積額)と消費支出(消費支出累積額)の差額であって、その差額は消費収入と消費支出とによって具現された過去を一期間として見なした活動の良否を物語ることになります。
貸借対照表における収支差額の「+」は過去の累積年度における「消費支出<消費収入」で、結果としてその活動は「良」であったことを示し、「−」は過去の累積年度における「消費支出>消費収入」であって、結果としてその活動は「不良」であったことを示すことになります。ここに貸借対照表に基本金を計上する意義があるものといえるのです。
3 現実の基本金計上
しかしながら、現実には固定資産の取得原資は必ずしも帰属収入から控除されるべき収入すなわち消費支出に充ててはならない収入だけでなく、したがって、理念通りの基本金計算を実施すると、「消費支出に充ててはならない収入<基本金として控除した額」の関係から、消費収入は本来の額からして少額になり、そこから算出される消費収支差額は当該年度の活動を表しているか否かについて疑問が生じてくることとなります。
よって、これを防止するために基準は、第30条第3項で基本金の未組入れ(繰り延べ)処理を認め、消費収支計算の有用性を計っているのです。しかしながら、この繰延処理によって、貸借対照表における基本金は貸借対照表に計上された固定資産の価額とは同額にはならないため、貸借対照表における消費収支差額が理念とは乖離し、その意義を全うすることができなくなってしまうのです。
ただ、貸借対照表における基本金が有用性を欠いても消費収支計算がその有用性を保証されるのであれば、基本金組入額が貸借対照表の脚注に明らかにされていることから、この未組入額を繰越消費収支差額から控除することによって繰越消費収支差額が基本金が理念通り全額計上された状態と同様になるため、この基本金の繰延処理は首肯できることになります。しかしながら、消費収支計算は、この基本金の繰延処理だけでは理念通りにならず、消費収支計算の有用性を取り戻すことができないので、基本金繰延処理はその意味を持たないことになってしまいます。
4 結び
したがって、消費収支計算書においても貸借対照表においても基本金計算の有用性を持たすためには、基準の改正が求められることになります。
では、どのような改正を行えばよいのか。
その答えは、「理念通りの計算ができる」こととなるので、まず、貸借対照表における基本金計算を理念通りとするため、「基本金の繰延計算を廃止し」、固定資産=基本金とする。一方、消費収支計算書においては基本金組入額の二段階表示を行うことだと考えます。
消費収支計算における二段階組入れは、既に昭和51年に日本公認会計士協会が提唱した方式で、これによって第一段階で表示される消費収支差額は当該年度の活動結果を表し、第二段階で表示される消費収支差額は年度を超えた概念になります。
貸借対照表も消費収支計算書もどちらの計算書でも理念通りの基本金計算が実行されることとなり、そのぞれぞれに有用性が蘇ることになるのではないでしょうか。
※昭和51年日本公認会計士協会の学校法人会計基準の疑問点についてにおける
消費収支計算書の様式
消費収入の部
・
・
帰属収入合計
基本金組入額(T) △
消費収入の部合計
消費支出の部
・
・
消費支出の部合計
当年度消費収入超過額(又は当年度消費支出超過額)
前年度消費収入超過額(又は前年度消費支出超過額)
基本金組入額(U) △
基本金取崩額
(何)年度消費支出準備金繰入額
(何)年度消費支出準備金取崩額
翌年度消費収入超過額(又は翌年度消費支出超過額)