経営の理念と基本金
平成14年5月6日
公認会計士 山 口 善 久
1 基本金の意義
学校教育は、公益性が極めて高い事業として、現在の社会では位置づけられています。そこから、その会計の性格が定められてくることは、私が論じた「法人の活動と会計」に明らかにしたところです。
学校教育は公益性が極めて高い事業であるが故に、事業に必要な資産を事業の開始時点から自己資金で保有していることを社会は求めました。
この思考を会計の分野で明らかにしたものが基本金の意義であると私は考えます。
2 建物の取得と基本金
資産の取得について検討してみましょう。ここでの資産を建物として検討を開始します。建物の取得源泉として、次の三つが考えられます。
@ 寄贈による取得
(現金を介した寄贈が寄付金と呼ばれるものである)
(借方) 建物取得 100 (貸方) 寄 付 金 100
A 積立資金による取得
(過去の剰余による蓄えである)
(借方) 建物取得 100 (貸方) 積立資金 100
B 借入金による取得
(将来の剰余による取得………借入金の返済は通常将来の剰余によるので将来の剰余といったが、将来の剰余が生まれなければ過去の剰余を使用するかもしれない。しかし、ここでは論を簡明にするために借入金の返済財源は、将来の剰余とする。また、寄付金による返済もここでは考えない)
(借方) 建物取得 100 (貸方) 借 入 金 100
事業に必要な資産を事業の開始時点から自己資金で保有しているべきであるということは、経営の理念であり、本来的には会計の分野ではありません。しかしながら、学校法人会計基準(以下「基準」という)はこれを会計の分野に取り入れました。よって、会計はこの理念をどのように処理し報告するかがその仕事となります。したがって、理念が異なれば、これから述べる会計の方策は全くと言っていいほど変わります。
冒頭の学校教育にかかる理念………学校教育は公益性が極めて高い事業であるが故に、事業に必要な資産を事業の開始時点から自己資金で保有していること………を、会計に導入したものが現行基本金の考え方です。しかしながら、現行基準の基本金規定は中途半端だといわざるを得ません。
理念を完全に会計に反映させますと、上記の@もAもBも全て基本金の組入れが実行され、貸借対照表及び消費収支計算書では次のように報告されます。
貸借対照表(A)
@ 建 物 100
A 建 物 100
B 建 物 100 |
@ 基 本 金 100 寄贈による取得
A 基 本 金 100 借入金による取得
B 基 本 金 100 積立金による取得 |
消費収支計算書(A)
@ 組入額 100
A 組入額 100
B 組入額 100 |
@ 寄付金 100 寄贈による取得
A 借入金による取得
B 積立金による取得 |
しかしながら、現行基準による処理及び表示は次のようになっています。
貸借対照表(B)
@ 建 物 100
A 建 物 100
B 建 物 100 |
@ 基 本 金 100 寄贈による取得
A 借入金による取得
B 基 本 金 100 積立金による取得 |
消費収支計算書(B)
@ 組入額 100
A
B 組入額 100 |
@ 寄付金 100 寄贈による取得
A 借入金による取得
B 積立金による取得 |
上記の貸借対照表の貸方への計上は、消費収支計算書における基本金組入額の帰属収入からの控除と相俟って、貸借対照表における繰越消費収支差額がプラスの場合には、自己資金での建物取得がなされたことを物語ります。
これを私は、拙論「基本金と貸借対照表」(月刊「学校法人」平成12年6月号)で次のように述べました。
すなわち、基準は理念として、固定資産は帰属収入のうちの消費支出に充ててはならない収入を原資として取得され、よって、その原資−すなわち取得相当額は帰属収入から控除し、貸借対照表の貸方に基本金として処理することとしたのです。この帰属収入からの控除、並びに、貸借対照表への基本金計上によって、貸借対照表における消費収支差額(正確には翌年度繰越消費収支差額)は、 学校法人が設立され学校教育のための活動を開始してから貸借対照表作成時点までの消費収入(消費収入累積額)と消費支出(消費支出累積額)の差額であって、その差額は消費収入と消費支出とによって具現された過去を一期間として見なした活動の良否を物語ることになります。
貸借対照表における収支差額の「+」は過去の累積年度における「消費支出<消費収入」で、結果としてその活動は「良」であったことを示し、「−」は過去の累積年度における「消費支出>消費収入」であって、結果としてその活動は「不良」であったことを示すことになります。ここに貸借対照表に基本金を計上する意義があるものといえるのです。
したがって、現行基準での借入金による建物取得に際しての基本金組み入れの繰り延べ処理は、この理念に反することになります。
では何故、借入金による資産取得に際しては組み入れの繰り延べを定めたのでしょうか。
これについて私は、拙署「精解基本金」で次のように論じました。
「負債(収入)を取得財源とした金額について基本金の組入れを求めますと、128頁に図示しますように、消費収入に基本金組入額が喰い込み、消費収入はそれだけ小さく表示され、結果として消費収支差額が当該年度の経営成績を表さないことになってしまいますので、『基準』は、このような弊害を取り除くために、図の消費収支計算書(2)を消費収支計算書(1)に改め、最後の消費収支差額が当該年度の経営成績を表示できるようにしています。」(126頁)
これが、基本金繰り延べの理由ですが、これでは経営理念を会計に導入した当初の目的を放棄してしまっているのです。
では、この借入金に係る基本金の組入繰延処理を実施した場合には、消費収支計算書は当該年度の経営成績をきちんと表すのでしょうか。
上記Bのケースをみてみましょう。
Bの基本金組入れは積立預金での建物取得でした。積立預金は過去の年度に積み立てられたものです。すなわち、積立預金は過去の剰余により積み立てられたものであって、当該年度の剰余(収支差額)によって積み立てられたものではないのです。したがって、Aの借入金のケースからするとこのケースでも、基本金組入れの繰延処理が求められなければなりません。しかしながら、現行基準は、このBのケースでは、繰り延べを認めていませんのでA借入金のケースと矛盾が生じ、結果として最後の消費収支差額が当該年度の経営成績を表示することはできません。
ただ、これについて現行基準は、第2号基本金の定めにより、この解決を図っていますが十分ではありません。また、私にはこの第2号基本金の基本金組入れについても疑点があり、先程の当該年度の経営成績表示には何らの貢献はされていないものと考えます。
これについては、私は先の「精解基本金」で次のように論じています。
「この規定は、『旧基準』のもとでの悪しき慣行であった“資産の特定化即基本金組入れ”という処理を規制し、消費収支計算書の操作性を排除するために、62年8月『改正基準』で新設されたものです。
第30条第1項は、第2号と第3号でそれぞれの資産を基本金対象資産として定めました。いずれの資産も“金銭等の保有”のみが基本金組入れの要因となりますので、基本金組入れに当たっては消費収支の状況を見ながら資産の特定化を行うことが可能となります。正に基本金の組入れの手加減により、消費収支差額の操作を計ることができるのです。」
このように消費収支計算書における当該年度の経営成績を表すことができないにも係わらず、貸借対照表における基本金の計上すなわち繰越消費収支差額(累積消費収支差額)による経営状況の判断を放棄することは、基本金の理念からの乖離であり、その意義を否定することになってしまいます。
「ただ、貸借対照表における基本金が有用性を欠いても消費収支計算がその有用性を保証されるのであれば、基本金組入額が貸借対照表の脚注に明らかにされていることから、この未組入額を繰越消費収支差額から控除することによって繰越消費収支差額が基本金が理念通り全額計上された状態と同様になるため、この基本金の繰延処理は首肯できることになります。しかしながら、消費収支計算は、この基本金の繰延処理だけでは理念通りにならず、消費収支計算の有用性を取り戻すことができないので、基本金繰延処理はその意味を持たないことになってしまいます。」(前出拙論「基本金と貸借対照表」)
3 基準の改正
したがって、消費収支計算書においても貸借対照表においても基本金計算の有用性を持たすためには、基準の改正が求められることになります。
では、どのような改正を行えばよいのか。
その答えは、「理念通りの計算ができる」こととなるので、まず、貸借対照表における基本金計算を理念通りとするため、基本金の組入れに係る繰延処理を廃止し、固定資産=基本金とする。一方、消費収支計算書においては、次に述べるように基本金組入額の二段階表示を行うことだと考えます。
消費収支計算における二段階組入れは、既に昭和51年に日本公認会計士協会が提唱した方式で、これによって第一段階で表示される消費収支差額は当該年度の活動結果を表し、第二段階で表示される消費収支差額は年度を超えた概念になります。
貸借対照表も消費収支計算書もどちらの計算書でも理念通りの基本金計算が実行されることとなり、そのぞれぞれに有用性が蘇ることになるのではないでしょうか。
※昭和51年日本公認会計士協会の学校法人会計基準の疑問点についてにおける
消費収支計算書の様式
消費収入の部
・
・
帰属収入合計
基本金組入額(T) △
消費収入の部合計
消費支出の部
・
・
消費支出の部合計
当年度消費収入超過額(又は当年度消費支出超過額)
前年度消費収入超過額(又は前年度消費支出超過額)
基本金組入額(U) △
基本金取崩額
(何)年度消費支出準備金繰入額
(何)年度消費支出準備金取崩額
翌年度消費収入超過額(又は翌年度消費支出超過額)
4 第2号基本金・第3号基本金
以上が第1号基本金に係る検証ですが、他の第2号、第3号、第4号の基本金についてはどうでしょうか。
第2号基本金は、第1号基本金の対象となる資産の将来取得に備えての取得財源の確保すなわち資金の特定化を基本金の組入要因とするものです。では何故、資金の特定化が基本金の組入要因になるのでしょうか。昭和62年基準改定時の文部省の通知は、「高額な固定資産の取得に係る基本金組入れは、取得年度に集中することのないよう、取得に先行して、第30条第1項第2号及び第2項の方法により組入計画に従って、年次的・段階的に行うこと」と述べていますが、消費収支差額への負担の均てん化により、できるだけ消費収支差額への影響を最小化しようとの意図は分かりますが、当該年度に資金特定化の財源が経営に流入しない限り組入れの理由を見いだすことができませんし、また、先に検討したような消費収支差額への影響は消えず、かつ、操作性がないことの保証はありません。
しかし、先に基準改正の提言で述べました基本金組入れの2段階表示によれば、資金の特定化を基本金組入れの要因としても、このような弊害はカバーできます。当該年度に特定化資金の経営への流入がない場合には、当年度の消費収入超過額(又は消費支出超過額)を算定した後に、基本金組入額(U)として処理・表示することにより解決されるのです。 この処理は、剰余金の基本金化、企業会計的にいうならば剰余金の資本金化であり、したがって、組入可能額は剰余金の総額(若しくは総額の一定割合)を上限とするような制限が付けられるでしょう。
また、第3号基本金についても第2号基本金と同様に考えることをもって解決されるものと考えます。
5 第4号基本金
学校法人の活動のためには、土地、建物及び機器備品等のほかにある程度の額の運転資金が必要です。その必要一定額を基本金対象資産としたのがこの第4号基本金の定めです。
が、実際に貸借対照表をみますと基本金に対応する資産が表示されていません。といって、ここで求められている文部大臣の定める額が、全く学校法人内に存在していなくてもよい、すなわち、全く計算だけでよいわけではありません。この額は、取り立ててどの資産というように貸借対照表に明示されていなくても、法人が所有している何らかの資産にその額が反映していることを、「基準」は期待しているものと私は解釈しています。すなわち、貸借対照表の貸方に基本金を計上し、それに対応する資産が借方側に存在するのであれば、貸借対照表の繰越消費収支差額は、貸借対照表のうえで「0」若しくは「+」に表れますし、対応する資産が借方側に存在しないのであれば、貸借対照表の繰越消費収支差額は、貸借対照表のうえで「−」に表れます。このような貸借対照表の表示によって、経営の状況(教育活動に必要とされる恒常的保持資金の自己資金での充足度合)をみようとするのが、この第4号基本金の定めだと考えます。したがって、ここでの基本金組入れは、当年度の消費収入超過額(又は消費支出超過額)を算定した後に、基本金組入額(U)として処理・表示することにより解決されるのです。
6 基本金と減価償却
別稿
以上