公会計についてのの一考察                    
1 バランスシート導入論                     
  自治体の財政困難を背景にして、公会計へのバランスシートの導入、
企業会計手法の適用、複式簿記法の採用等、様々の意見が見られる昨今
であるが、最も多く見られる提言はバランスシートの公会計への導入論
のようである。提言する人々は、提言するバランスシートで全てが解決
するとの考えはないのであろうが、このバランスシートで何か自治体が
抱えている問題が全て解決するかのように世には伝えられているかに感
ぜられる。                           
  以下、バランスシート導入論について若干の考察を試みるが、以下の
考察は、いわゆる事業会計を念頭においているものでないことを付言し
ておきたい。                          
   
2 自治体とバランスシート                    
  では、バランスシートすなわち貸借対照表とは何か。複式簿記を持ち
出すまでもなく、貸借対照表は、通常、損益計算書と対の概念であるが、
今回の貸借対照表論は損益計算書の必要性はあまり表にでてこない。公
会計において損益計算書が必要か否かは、別に述べることとして、損益
計算を目的としている企業会計においては貸借対照表は損益計算書と損
益計算書との連結環になっていることを述べるまでもないであろう。ま
た、これを裏を返して述べるならば、会計年度始めの貸借対照表が当該
年度の事業活動により会計年度末の貸借対照表になり、年度始めと年度
末の貸借対照表の間の事業活動が損益計算書となる。        
  では、ここにおける貸借対照表に計上されるものは何か。私たち会計
に携わるものは、資産、負債及び資本が貸借対照表に計上されると簡単
にいうが、ここ公会計においては資本の概念はないので、貸借対照表に
計上されるものは消去法で資産と負債ということになる。このうち負債
については対外的に認識、確定されるものであるため、何らの問題も生
じないが、資産については貸借対照表に計上するか否かはそれほど簡単
ではない。                           
   
3 資産の貸借対照表能力(1)                   
  ここで、今回のバランスシート論の発端を見てみると、どうも自治体
の懐が苦しくなり、それに対処するための基本資料、すなわち負債を埋
め合わせることができると思料できる資産がどのくらいあるのかが、ど
うもどこの自治体もうまく把握できなかったことにあるようである。 
  この点から貸借対照表に計上される資産を考えてみると、負債を埋め
合わせることができる資産が貸借対照表に計上されることが求められる
ようである。投資資産(有価証券、不動産等)がこれである。では、自治
体にとって大きな比重を占める、道路、橋等の社会資本とされるものは
どうであろうか。このような社会資本はそれを処分して負債に充てるこ
とはなく、また、それを所持することを計画した意味からして処分する
ことは論外であり、よって貸借対照表に計上する資格がないものといえ
る。では、庁舎等はどうであろうか。いろいろ意見があろうかと思える
が、これは橋や道路のような社会資本とはその性質が異なるので、私は
処分可能と考える。                       
  ※ただし、この論は次に述べるような損益計算を主体とした損益計算書と貸借
  対照表を作成する会計思考とはその立場を異にしているものといえ、貸借対
  照表論の絞り込みが必要であろう。
   
4 資産の貸借対照表能力(2)                   
  しかしながら、貸借対照表への資産計上の資格論には今一つある。否、
今一つあるというより企業会計の上では、こちらの考え方が主流であり、
理論の主柱であるといえよう。それは金銭からスタートし、その金銭の
投下により価値を創造し、その価値を回収することにより利益を得ると
いう企業活動の過程において、投下された価値が未だその回収に至って
いない状態のものを資産とするものである。商品然り、製品然り、そし
てまた、商品販売をサポートする店舗然り、製品製造に使用される工場
然りである。いずれもそれらの価値の固まりを元として対価を得るため
に企業内にとどまっているものである。              

 
この点において社会資本といわれる道路、橋等はどうであろうか。
道路、橋等の社会資本は、利用に応じて対価を徴収するというより税
金を課して対価を回収するというように、その対価性が特殊なため、企
業活動と同様に回収が未だされない価値の固まりとして事業体内にとど
まっているものとは考えるより、取得された時点において消費されたも
のとして考えるのが妥当なのではないだろうか。昔から、自治体が消費
経済体とされる所以である。                   
  したがって、このような考察に立って、仮に自治体において貸借対照
表を作成すると、自治体における貸借対照表は、企業会計における損益
計算を主体としたものでないものといえよう。貸借対照表論を展開する
場合は、この点を明瞭にすべきであろう。             
  費用対効果(費用対成果)をみるために、貸借対照表を求める考え方
もみられるが、費用対効果をみるための手法は、仮に公会計に財務会計
的なものと管理会計的なものがあるとすれば、それは管理会計的なもの
の分野に属すのではないだろうか。費用対成果の測定は、個別事業ごと
に判定されるものであって、総体的な概念であってはならず、ましてや
総体的にそれをみてもその判定はできないものと考える。      
   
5 バランスシート論の本質                    
  にもかかわらず、多くのバランスシート論が社会資本を貸借対照表に
計上するのは何故であろうか。多分それには二つの理由が挙げられるの
ではないだろうか。                       
  一つは、社会資本とその財源としての負債の対照性である。今一つは、
私たちが企業会計的な思考の上で資産とするものの全体把握である。 
  前者は、案件ごとに個別に対応すべきものであって、事業体全体の把
握である貸借対照表の問題ではない。貸借対照表そのものは総括的把握
の概念であって、個別案件別の把握概念ではなく資産と負債に個別紐付
き関係は求めないのである。                   
  後者は、事業体が所有する財産の一覧表作成の観点であって、貸借対
照表作成の問題ではない。命名に問題があるといえよう。ただ、どうも
論者によってはこの辺のことは承知でわざわざ「貸借対照表」といわず、
「バランスシート」といっている節もある。自治体に資産負債一覧表が
必要なのであれば、先ず「バランスシート」とは「貸借対照表」とは異
なったものであることを明らかにし、その本質は資産負債一覧表である
と明確にして、論を展開すべきである。それによってはじめて有効な「バ
ランスシート」論が確立されよう。                
  ※動的貸借対照表論に対して静的貸借対照表論があるが、ここでは、あえて「貸
  借対照表」を動的貸借対照表論に限定させた。両者を同じ土俵の上で検討す
  ることは望ましくないとの考えからである。
   
6 収支計算書と資産負債一覧表                  
  では、私たちは自治体の持つ多額の負債の問題を如何に対処できるの
であろうか。以下のように様々なことが考えられるよう。特にこの中で
外部監査の公正な実施は大事なことである。公表される資料だけで自治
体の内容が明らかになることなど到底不可能であり、したがって、公表
された資料が定められたルールに従って公正に作成、公表されているこ
との保証責任が担わされるであろう。               
@ わかりやすい収支計算表の作成                
  A、Bによる負債減少計画の将来収支計算書への反映を忘れずに。
  よって、将来に向けての予想収支計算表の公表も考えられよう。
A 負債の有り高とその削減計画、それに基づく将来時点の負債の有り
  高の把握
B 処分可能財産の有り高とその処分計画、それに基づく将来時点にお
  ける処分可能財産の有り高
C AとBの報告のうちの残高を一覧にしたものを資産負債一覧表とい
 

















 
(前述したようにバランスシート導入提言者は、これをバランスシ
  トというのかもしれない。概念を明らかにすれば私は名称にこだ
  るつもりは毛頭ない)。
  して、この一覧表に社会資本を資産として計上するとしたら、他
  資産と明瞭に区分し、負債減少財源にはならない旨を明示する。
  らに、この資産負債一覧表の資産マイナス負債の差額の評価をど
  ようにするかを詰めることを要し、その際に計上すべき資産の範
  、資産の計上価額、そして、その計上価額に事後の評価をどうす
  のかも解決しなければならない問題である。
  ※評価替えについては、十分な検討が必要である。 資産負債一覧表では、
  資産とされるものを全額負 債を持って調達し、その調達価額で当該表に計
  上されるならば、借方=貸方で、正味財産は「0」で「マイナス」にはなら
  ない(したがって、正味財産の「マイナス」は、資産にならないものの支出財
  源が負債である場合であり、ここに正味財産額の判定を如何にするかの難し
  さがあるといえ、さらに、次に述べる含み損をも加えると正味財産額の判定
  には益々困難性が増すのである)し、また、仮にその調達価額に含み損がある
  若しくは生じたならば、正味財産(費用対成果)は「0」でなく「マイナス」
  の筈である。この点が前述した資産と負債の対応性は個別案件として処理す
  べきであるとした所以である。
D 外部監査と内部監査の公正な実施               
  費用と成果の対応をどうするか。
  そして、特にその成果をどう測定するか。さらに、その後の評価替え
はどうするか。                         
  これらの評価等のトレースは、外部監査の領域か、内部監査の領域か。
  外部監査と内部監査の相互連携は。
  いずれも重要かつ喫緊の問題である。
E その他