リース会計と学校法人会計基準
              公認会計士 山口善久
1 日本公認会計士協会委員会報告の有効性                 
 日本公認会計士協会(以下「協会」という。)は、平成9年12月8日付けで学校法人委員会報告第37号「リース取引に関する会計処理及び監査上の取扱い」(以下「取扱い」という。)を公表した。そして、その適用は、平成10年4月以降新たに締結するリース契約よりとされている。
 取扱いによると「ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行う」とされている。その理由について、その解説は「取引契約に係る法的形式は賃貸借であっても、その経済的実体が当該物件を売買した場合と同様の状態にあると認められるため、固定資産を基本金として処理するためにも通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行うことが必要である」と述べている。
 リース会計は企業会計の会計慣行の中で熟成されてきたものであり、それ自身については首肯するところであるが、この取扱いのみによって、ファイナンス・リース取引に通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を、学校法人会計に強制的に求めることには疑念がある。
 学校法人会計は、いうまでもなく、学校法人会計基準(以下「基準」という)に基づく学校法人の会計である。そして基準は、私立学校振興助成法(和50年法律第61号)第14条において文部大臣に委ねられた省令基準である。
  私立学校振興助成法第14条
 
 
 
 

 
「第4条第1項又は第9条に規定する補助金の交付を受ける学校法人は文部大臣の定める基準に従い、会計処理を行い、貸借対照表、収支計算書その他の財務計算に関する書類を作成しなければならない。」
  文部省令第18号 (昭和46年4月1日)
 
 
 
 
「私立学校法(昭和24年法律第270号)第59条第8項の規定に基づき、学校法人会計基準を次のように定める。」
  文部省令第14号(昭和51年4月1日)
 
 
 
 

 
「 私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)の施行に伴い、及び関係法律の規定に基づき、学校教育法施行規則等の一部を改正する省令を次のように定める。
 
 
 
 
 第3条 学校法人会計基準(昭和46年文部省令第18号)の一部を次のよ   うに改正する。
           ・・・・略・・・・
 従来から、協会では、私立学校振興助成法第14条第3項に基づく監査を行うため、基準の解釈について多くの委員会報告を公表してきた。今回の取扱いもその延長線上にあるものと理解しての公表と推測するが、果たして、この取扱いは、従来の委員会報告と同様のものと解することができるのであろうか。
 リース取引は、平成5年6月17日の企業会計のおけるリース取引に係る会計基準の設定の際に「大蔵省」が発表した前文にもあるように30年ほど前から我が国において導入され、その後増大してきたものである。学校法人におけるその導入は企業ほど古いものではないが、決してここ一両年でみられたものではない。そして、学校法人会計はこれを、賃貸借取引とし、協会はこれを正当な会計処理として認めてきた。それを、今回の取扱いは、売買取引に係る方法に準じたものとしての会計処理を求めたものであるが、少なくとも学校法人会計が省令基準である以上、協会の一片の委員会報告でその会計処理方法をかえることはできないものと考える。今回の取扱いは、従来の委員会報告がなしてきた基準の解釈ではなく、基準の改定を行っているのではないだろうか。
 協会は、これに対し、基準第1条第2項「学校法人は、この省令の定めのない事項については、一般に公正妥当と認められる学校法人会計の原則に従い、会計処理を行い、計算書類を作成しなければならない。」を掲げ、平成5年6月17日以来の企業会計のリース取引に係る会計基準の設定によって、その会計慣行が形成されてきたというかもしれない。しかしながら、平成5年6月17日のリース取引に係る会計基準は、企業会計の慣行形成であって学校法人会計の慣行形成ではないし、事実、協会は、この形成慣行では学校法人会計でのリース会計の取り扱いを果たすことができないので、今回の取扱いを公表したのではないだろうか。
 これに対して、またまた、協会は、企業会計のリース取引に係る取引に係る会計基準の公表以来、その会計慣行の熟成を待って、今回の取扱いの公表し、学校法人会計の中にその会計慣行を形成するというかもしれないが、この論理には、基準第1条第2項の解釈としては無理があるものと考える。
 私は、決してリース会計を学校法人会計の中に導入してはならないといっているのではなく、これは、省令基準の改定(若しくは改訂に準ずる文部省通知等)によってなされるべきであって、協会の委員会報告のみをもって導入を強制するには、リース会計はあまりにも重要であり、基準の解釈の枠を越えていると言っているに過ぎないのである。図らずも取扱いにもあるように、売買取引の概念にリース取引が入るということではなく、リース取引は通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行うといっているのは、基準の解釈をしているのではなく、基準に新しい概念を導入しているのである。
 平成7年6月の総務庁の「高等教育に関する行政監察結果に基づく勧告」における、学校法人「会計基準は、教育事業の非営利性、要継続性など学校法人の特性を考慮して制定されたものであり、その会計処理は、一般の企業会計原則に基づく計算方式とは異なっている。」という言を借りるまでもなく、学校法人会計と企業会計とは、その計算方式をかえている。企業会計の慣行を学校法人会計の慣行に無批判に導入してはならないのである。 また、企業会計におけるリース会計の導入にあたっては、大蔵省は先のリース取引に係る会計基準を大蔵省の名をもって公表するとともに、かつ、企業会計の表示基準である財務諸表等規則を大蔵省令をもって改正し、その第8条の6として「リース取引に関する注記」の条をもうけ、詳細にリース会計についての定めを加えている。企業会計でもこれだけの手当をしてリース会計を、その会計に導入しているのである。ましてや企業会計とその計算方式をかえている学校法人会計では、その所管官庁の文部省の意思表示(基準改定等)が必要である。
2 所有権移転ファイナンス・リースについて
 聞くところによると、協会においてリース取引を委員会の俎上にあげたのは、学校法
人の中に契約当初から所有権移転を伴ったリース契約をなし、それを賃貸借取引として処理する例が見受けられてきたからとも聞くが、これについては、取扱いでは何ら触れられていない。                                
 取扱いの解説に、「リース期間終了後又は中途で所有権が移転する」リースは、所有
権移転ファイナンス・リースと見なされるとしているが、リース契約とされていた物件にそのリース期間中途で所有権移転がなされたならば、その取引をリースと呼ぼうが何と呼ぼうが、それはその物件の所有権移転以後はリース取引ではなく、売買取引である。いわんや契約当初から所有権の移転をしている取引についてはいうまでもない。もし、取扱いが、かような取引を今回の取扱いによって処理しようと考えているならば、リース会計そのものの概念を変えてしまうものであり、この点について十分に留意すべきであろう。
3 基本金の取扱い
 取扱いの解説のまえがきに「基本金の取扱いについては、今後検討する予定である」としているが、リース取引の検討の一因が基本金との関連で多くの質問が寄せられていることにあるのであれば、早急に、それも、平成10年度の予算を作成する時期(遅くとも平成10年の2月頃)までに基本金の取扱いを公表すべきである。これについては、今少し遅く平成10年度に入ってからその決算時期まででよいのではないかとの考えもあるかもしれないが、学校法人会計は予算会計であり、また、リース取引の額が多い場合は第2号基本金とも連動するところであり、さらに、第2号基本金は、平成8年2月6日付けの文部省高等教育局私学部学校法人調査課長の協会宛の要望を受けて、協会の学校法人担当常務理事名で協会会員に対して「第2号基本金が計画的に組み入れられるように学校法人を指導されたい」との指導通知を発していることからしても、リース会計を学校法人会計に導入する以上、上記の時期までに公表するのが協会の務めである。
  ※リース会計の導入によって発生した基本金に係る問題を一つだけ以下にあげてみる。







 
 未払金として会計処理するリース料をそのまま基本金処理においても未払いの扱いをすれば、それは基本金の未組入れとされ、その後未払金の支払いとともに基本金の組み入れを計ることになり、基本金問題は簡単であるが、高額固定資産の購入に伴う基本金の組み入れは第2号基本金を用意してとの前述の指導との考え方の整合性をどのように考えたらよいのであろうか。片や資金を前から用意して消費収支計算に早めに負担せしめ、片や資金の後払いをして消費収支計算の負担を後に繰り延べる。リース会計の導入によって基本金会計はまた新しい問題を抱えたということはできないであろうか。
4 会計処理と予算管理
リース会計の導入により、消費収支計算の会計処理は次のようになり、それに伴い資金収支計算の処理もたぶん次のようになるのであろうと推測する。        
  消費収支計算の仕訳





 
(リース契約時)
 借方 固定資産 ×××  貸方 未払金 ×××
(リース料支払時)
 借方 未払金   ××  貸方 現金預金 ××
(決算時)
 借方 減価償却額  ××  貸方 固定資産 ××
  資金収支計算の仕訳
  (リース契約時)
   借方 固定資産購入支出××× 貸方 期末未払金×××
  (リース料支払時)
   借方 期末未払金   ×× 貸方 支払資金 ××…リース契約締結年度
    又は
   借方 未払金支払支出 ×× 貸方 支払資金 ××…リース契約締結翌年度以降
  (決算時)
       なし
 ここで問題は、予算管理をどのようにするかである。通常であれば、固定資産購入支出の予算計上をなし、それによって予算管理をするであろう。しかしながら、従来の学校法人における予算計上及び予算管理は、リース料の支払によってなされてきたと考えられる。また、なかには固定資産の購入予算がないからリースによる予算を計上してきたところもあるかもしれない。これまで、協会は否定するのであろうか。協会は、リース会計を導入するのであるならば、予算計上の考え方や予算管理の手法を早急に明らかにする義務がある。                                   
   このような問題を解決するためにはリース会計を学校法人会計に導入するにあたって、企業会計とは異なった学校法人会計の考え方を用意すべきであると考える。例えば、次のように決算時における処理のみで貸借対照表計上額を解決する方法等である。この方法は、減価償却計算における耐用年数とリース契約におけるリース期間とに差があるときには少々問題があるかもしれないが、学校法人会計においては容認できる範囲内にあるものと考えるし、また、こう考えないと学校法人会計における機器備品等の耐用年数は比較的長い期間で定めている法人が多いことから、リース期間との差において更なる問題を抱えることになろう。
消費収支計算の仕訳
 
 
 
 
 
 
 
 






 
(リース契約時)
      なし
(リース料支払時)
   借方 賃借料   ××  貸方 現金預金 ××
(決算時)
   借方 固定資産  ××  貸方 未払金  ××
      未払金   ××     固定資産 ×× (リース料支払済額)
   資金収支計算の仕訳





 
(リース契約時)
      なし
(リース料支払時)
   借方 賃借料支出  ××  貸方 支払資金 ××
(決算時)
       なし
 

 
 
消費収支計算における未払金処理をどうしても資金収支計算に反映させようするならば、固定資産勘定に代えてその他の収入及びその他の支出勘定を使することが考えられる。