学校法人の財務分析に関する報告く中間報告)について
 
文管振 第164号
昭和51年4月19日
 
文部大臣所轄各学校法人理事長殿
文部省管理局長 清水成之
 
「学校法人の財務分析に関する報告(中間報告〉について」
について 〈通知〉
 
 学校法人の財務分析について,学校法人財務基準の調査研究会から,別添
のとおり報告を受けましたので通知します。
 なお,各学校法人においては研究のうえ,学校法人の財政上の運営の参考
として利用されることを望みます。
 
   学校法人の財務分析に関する報告(中間報告)について
       (昭和51年3月24日
        学校法人財務基準調査研究会報告)
 
 学校法人の財務分析については,従来から諸種の試みがなされているが,
当調査研究会においてもこれについて検討した結果,このほど別紙のとおり
一応の結論を得たので(中間)報告します。なお,別紙の学校法人の財務分
析の方法は,一応のよりどころを示すものであり,今後,さらに必要に応じ
て検討を行うべきであると考えます。
〔別 紙〕
 
学校法人の財務分析について
 
1 学校法人の財務分析の考え方
 学校法人の財務分析の手法は,会社の経営分析の手法を応用する面が多い
が,両者の分析目的は基本的に異るので,財務分析を行うに当たって,この
点を特に注意する必要がある。
 一般に会社は利益を得ることが基本目的とされるから,利益が多いほど会
社の成長力も高く,財政もよくなり,経営的にも財政的にも優れているもの
とみられている。これに対し,学校は教育・研究を目的とする恒久的な組織
体であるから,剰余が多いほどよいという解釈は成立しない。むしろ長期的
にみて学校財政が健全に維持されているか否か,学生・生徒などの経済的負
担が公平かつ適正であるかどうか,教育・研究施設等が適切に充実されつつ
あるか否かという立場から,財務資料を解釈することが重要とみられる。
 
2 財務分析の手法
 学校法人の財務資料を利用して行う分析の手法としては,およそ次のもの
があげられる。
(1〉 構成比率法
   個々の計算書類につき,その各科目の金額の全体に対する割合を百分
  比をもって表す。これを例えば貸借対照表について適用するときは,資
  産の部の合計金額(又は負債の部,基本金の部及び消費収支差額の部合
  計金額)を100(%)とし,これに対する各科目の金額の割合を百分比を
  もって示すので,百分比貸借対照表とも呼ばれる。計算書類の各科目の
  金額は,その実数の大きさだけでなく,その全体に対する割合が重要な
  意味を持つので,この手法は,分析上広く用いられる。
〈2〉 関係比率法
   計算書顆のある科目の金額と他の科目の金額を比較し,その割合を
  もって表わす。関係比率は一つの計算書類上の科目について求められる
  だけでなく,一つの計算書類のある科目と他の計算書頬のある科目の間
  でも成り立つ。また,必要に応じて,計算書類以外の数値を対比させる
  こともある(例えば,学生生徒等納付金額対学生・生徒数)。いかなる関
  係比率が有用かは,分析の目的に依存する。
(3)比較法
   一つの法人の一つの年度だけの計算書類を分析観察するよりも,その
  法人の過年度の計算書類や他の法人等の計算書顆と比較分析する法が,
  より有効な判断資料を入手することができる。比較法は大別して期間比
  較法と相互比較法とがある。
  ア 期間比較法
    計算書類の各科目の実数,構成比率あるいは関係比率等を数期間に
   わたって並べ,その推移を観察する。計算書類,例えば貸借対照表を
   数期間並べて表示したものを比較貸借対照表と呼び,通常は各科目ご
   とに前期との増減額を記載する。これを増減法という。
    個々の科目の期間的推移を基準年度を100とする指数をもって示す
   手法をすう勢法という。特定の数値間(例えば,いわゆる経常的経費
   と補助金)の関係の期間的な推移を観察するのに便利である。
  イ 相互比較法
    相互比較の比較資料としては,他の法人の計算書類,財務分析の統
   計資料,標準又は目標として設定された指標等が考えられる。比較の
   対象の選択は,分析の目的によって異るが,それぞれの比較のもたら
   す意味の解釈については,慎重な配慮が必要である。
〈4)分析手法適用上の注意
   財務分析は,学校法人の財政及び経営の概況について一般的な理解の
  ための用具として用いられるほか,限られた特定の目的に重点を置いて
  分析を行うことがある。
  ア 前者の白的のためには,あまりに数多くの関係比率等の算出を試み
   ることは,目的に対して必ずしも効果的ではない。
  イ 後者の目的のためには,目的に即して適当な手法を選択すべきであ
   る。この場合には,必要に応じて計算書類上の金額以外の数値をも適
   宜利用することがある。

 

3 各計算書類の分析
 
(1)資金収支計算書
  ア 資金収支計算,とりわけその予算はいかなる源泉から資金を調達し,
   これをいかに配分するかを課題とするので,構成比率法による観察が
   とくに有用である。
  イ 関係比率としては,例えば次のようなものがあげられる。

 

  当期資金支出  ※当期資金支出=支出の部合計−次年度繰越支払資金

  当期資金収入   当期資金収入=収入の部合計一前年度繰越支払資金

       
           支出の部合計              
  収入の部合計−(借入金等収入一倍入金等返済支出)

  借入金等返済支出

  借入金等収入
  

  借入金等返済支出十施設関係支出+設備関係支出
       借入金等収入

〈2)消費収支計算書
  ア 消費支出の部はともかくとして消費収入の部については,基本金組
   入額との関係で消費収入の部合計を100(%)とする構成比率はやや比
   較可能性に欠けるところがある。そこで,消費収支計算書については,
   むしろ,帰属収入合計額を100〈%)とする比率をもって消費収支各科
   目の構成比率を示すことが適当である。これらの構成比率は同時に帰
   属収入合計額に対する消費収支計算書各科目の関係比率でもある。
   例えば,次のようなものがあげられる。

   学生生徒等納付金     補助金     基本金組入額
     帰属収入      帰属収入      帰属収入

     人件費     教育研究経費
    帰属収入      帰属収入

  イ 分析目的によっては,消費支出の部合計穎を100(%)とする構成比

   率が役立つ場合もある。 

  ウ その他の関係比率としては,例えば次のようなものがあげられる。
  (ア) 学生生徒等納付金に対するものの例

 

     消費支出       人件費      教育研究経費  
   学生生徒等納付金  学生生徒等納付金   学生生徒等納付金

    借入金等利息   学生生徒等納付金   学生生徒等納付金
   学生生徒等納付金    学生生徒数      教職員数

 

  (イ)補助金に対するものの例

 

      補助金       補助金      補助金
     消費支出    学生生徒等納付金   学生生徒数

  (ウ) 消費収支項目のうちとくに経常的な収支の項目についての例

     経常的支出     経常的支出   
     経常的収入    学生生徒等納付金

    ※経常的収入=学生生徒等納付金+手数料十補助金+資産運用収
           入+事業収入+雑収入
     経常的支出=人件費+教育研究経費+管理経費+借入金等利息

(3)貸借対照表
  ア 構成比率を付した数期間の比較貸借対照表の観察によって財政状態
   の現況と期間的な推移の概観を把握することができる。
  イ 貸借対照表上の資産に対して,負債及び基本金等のその調達源泉を
   示す関係にあるので,これら両者の関係比率は,財政状態の判断に有
   力な資料を提供する。
   例えば,次のようなものがあげられる。

 

   固定資産  
   自己資金   (固定比率)※自己資金=基本金+消費収支差額  

   固定資産    

自己資金+固定負債  (固定長期適合率)

    負債           流動資産   
   自己資金 〈負債比率)   流動負債 〈流動比率)

 
現金預金          現金預金  
流動負債 (現金比率)   前受金 〈前受金保有率〉


   基本金に関連するものとしては次のようなものがあげられる。

 

   基本金要組入額     基本金     基本金   
    自己資金      自己資金    基本金要組入額

 

4 財務分析の解釈(評価)について

 分析の結果,分析者はこれらの比率等の数値をみて,その数値の背後にあ
る学校経営や財政の是非についての判定を下すことになる。この領域の分析
作業を「解釈」とか「評価」という。
 数値の解釈に際しては,分析者の知識,判断力に依存する面が多いので,
分析者は学校法人会計基準に対する周到な理解を持つことが望まれる。

(昭和51年4月19日付け文管振第164号で標記の件につき各都道府県知事に通知)