学枚法人の予算制度に関する報告(第1号)について
雑管第51号
昭和47年4月28日
文部大臣所轄学校法人理事長殿
文部省管理局長 安嶋 彌
「学校法人の予算制度に関する報告〈第1号)について」
について(通知)
このことについて,昭和47年3月16日に学校法人財務基準の調査研究会か
ら別添のとおり報告を受けましたので,送付します。
予算制度は,学校法人の諸活動についての具体的な計画策定を行ない,学
校法人全般にわたる合理的な運営を行なううえで欠くことのできないもので
あります。
各学校法人においては,予算制度の整備およぴその運営にあたっては,こ
の報告の趣旨を参考として適切な処理がなされるよう願います。
学校法人の予算制度に関する報告(第1号)について
(昭和47年3月16日
学校法人財務基準調査研究会)
学校法人の予算制度については,当調査研究会議において検討中であるが,
このほど結論を得た部分について別紙の通り報告します。
〔別 紙〕
学校法人の予算制度に関する報告(第1号)
「学枚法人の予算制度について」
T 予算制度の意義
1 予算制度
学校法人の予算は,学校法人の教育研究その他の活動の具体的な計画を,
所要の計算体系にもとづいて,科目と金額とにより表示し,総合編成したも
のであり,学校法人全般にわたる運営に役立てられるものである。この予算
の編成と実行のための組織および手続きを予算制度という。
2 計画と予算
予算は,具体的な計画の実現を可能ならしめるための資金的な裏付けを行
なうものである。この場合において,学校法人の利用可能な資金は有限であ
るから,学校の目的実現のため多様な事業計画およびそれらの組合せのうち,
総体として最大の効果を発揮できるような計画の選択と資金の配分が行なわ
れることが期待される。
3 予算の実行
学校法人の諸活動は,財政上の観点からは,予算の実行として理解され,
また,予算の実行にあたっては予算に対し過不足のない収支の実行が要請さ
れる。
このことは,予算制度のもつ統制機能によるものであって,この統制機能
は,まず業務執行の懈怠をチェックする面に作用すると同時に,業務執行が
予算の範囲を逸脱することを防止する面に効果を発揮する。しかしながら,
統制機能の意味が誤って理解されると,教職員の活動意欲を阻害する場合も
なしとしない。
以上の点から,慎重に決定された予算にもとづく学校法人の適正な運営が
望まれる。
II 学校法人財政の特性と予算制度
私立学校法第42条によれば,学校法人の予算については,理事長において,
あらかじめ評議員会の意見を聞かなければならない旨を定めている。法はそ
の具体的内容を規定していないが,従来の慣行から学校法人にとって予算制
度は必須のものであることを前提としており,任意のものではないと解され
る。
また,学校法人会計基準(昭和45年5月2日報告)は,「学校法人は,その
諸活動の計画について予算を編成し,予算にもとづいて運営される。」と規定
し,予算制度を学校法人会計の基礎的前提のひとつにあげている。そもそも
学校は公の性質を有するものであり,私立学校を設置する学校法人は,その
公共性と自主性を確保するために,財政的にも健全な維持と発展とを期する
ものでなければならない。学校法人の健全な維持と発展は,長期的な観点に
もとづく財政計画ないしは予算の整備を欠いては合理的な実現が困難であ
る。
このように学校法人にとってとくに予算制度が重視されなければならない
のは,およそ次のような学校法人財政の特性によるものと考えられる。
1 資金源泉の公共性
学校法人の資金源泉の主要なものは,学生生徒等納付金であり,また,近
時国・地方公共団体等からの補助金が占める割合が増加してきている。さら
に,学校法人の多様な資金源泉の中には,学費負担者以外の第三者による善
意の寄付金も多かれ少なかれ含まれている。
このように,学生生徒等納付金のみならず,国民の税金や善意の寄付金を
資金の源泉にあおぐ場合,その適正な使用についてとくに努力を払わなけれ
ばならないのは当然であり,予算制度はその効果的な使用の計画と,実際の
使用過程における無駄や浪費の排除のために,必須の制度と理解される。
2 収入・支出要因の固定性
学校法人の主要な財源である学生生徒等納付金収入は,学生生徒等の数と
授業料等の単価との積として算出されるが,教育の1サイクル(修業年限)
の期間において,授業料等学費の単価はそのサイクルの途中でたやすく変更
できない場合が多く,学生生徒等の数もサイクルのはじめに確定した人数が
卒業までにほとんど増減しないのが通常である。このため,収入については
もとより,支出についても,その教育プログラムの1サイクルが終了するま
では,これに必要な支出として当初計画した額を自由に変更することは実際
上困難である。
このように,当初の計画が単に1会計年度にとどまらず,以後,数年度に
わたって学校法人の財政に固定的な影響を及ぼし,その点で当初計画の適否
は学校法人の財政に決定的な意味をもつといえよう。
3 資産運用上の損失の特性
学校法人の資産に対しては,何びとの所有権も持分関係も成立しないので,
学校法人の運営上その資産に損失が生じても,それが「善良な管理者の注意」
の明らかな欠如によるものでない限り何びともその損失を負担できる関係に
はない。このことは元入資本出資者が損失をすべて負担する営利事業の場合
とは異なるところである。
また,学校法人の収入・支出の関係は,営利事業のように収益をもって費
用を回収するという過程をもたず,学校法人の収入は一方的に消費されるに
すぎないのである。
(付記)
もとより,予算制度は予算制度そのもののためではなく,あくまでも学校
法人の合理的な運営のための用具である。以上のような予算制度の意義に対
する共通の理解の上にたって,今後学校法人の予算制度の運営に役立つ研究
を推進し,逐次その成果を報告する予定である。
(昭和47年4月28日付け雑管第51号で標記の件につき各都道府県知事にも通知)
学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第2号)について
雑管第51号
昭和47年8月10日
文部大臣所轄学校法人理事長殿
文部省管理局長 安嶋 彌
学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第2号)について(通知)
学校法人の予算制度については,昭和47年4月28日付け雑管第51号で学校
法人財務基準の調査研究会から中間報告第1号として報告を受けた部分につ
いて通知しましたが,昭和47年7月17日に同研究会から中間報告第2号とし
て,別添のとおり報告を受けましたので送付します。
各学校法人においては,予算制度の整備および運営にあたっては,この報
告の趣旨を参考として適切に措置されるよう願います。
学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第2号)について
(昭和47年7月17日
学校法人財務基準調査研究会報告)
学校法人の予算制度については,昭和47年3月16日に予算制度の意義およ
び学校法人財政の特性と予算制度に関する部分を中間報告第1号として報告
しましたが,その後,当調査研究会議において引き続き検討を行なった結果,
このほど結論を得た部分について,別紙のとおり(中間)報告します。
〔別 紙〕
学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第2号〉
「学校法人の予算制度の一般原則について」
T 包括性について
学校法人の予算は,学校法人の諸活動のすべての領域を包含すべきである。
一般企業において見られるような特定領域・特定項目に限定した予算制度を
とることは適当ではない。
このことは,すでに述べた学校法人財政の特性(中間報告第1号U)参照)
によるもので,学校法人財政の健全な維持と発展のために必須の要件である。
また,これは,たとえば,文部省令「学校法人会計基準」第6条において,
予算と決算の対比を前提として,「学校法人は,毎会計年度,当該会計年度の
諸活動に対応するすべての収入及び支出の内容‥…・を明らかにする」と規定
していることによっても明らかである。
U 予算の体系化について
学校法人の予算は,体系的に整備されたものであることが重要である。予
算の体系化にあたっては,次の2点を考慮する必要がある。
1 部門予算と総合予算との関連
学校法人の予算制度においては,各部門の特質と法人の総合的観点か
らの方針とを有機的に結合して,総合予算を編成することが必要である。
すなわち,学校法人の予算は,各部門間の平均化とか経済性のみにと
らわれることなく,教育上の理念と方針とが各部門の諸計画に具体化さ
れるように,また,これらの諸計画が効果的に遂行できるように,各部
門予算と総合予算との調和的関係を保持して編成されるべきものである。
2 長期計画と予算との関連
予算は,通常1年の期間を単位として編成される。しかし,その内容
は,法人の長期計画と密接に関連していることが重要である。
たとえば,学校法人が,学事に関する基本的な改善や拡充のための企
画をとりあげる場合には,財政面の裏付けを伴った長期計画を基礎とす
る必要がある。このような長期計画にもとづいて各年度に分割された実
施計画が予算におりこまれなければならない。
V 予算書の種類について
学校法人会計基準(昭和45年5月2日報告)のU一般基準2・8には,「予
算と実算とは,ともに共通の会計基準にもとづかなければならない。」と規定
きれている。
これは,予算における計算書の種類についても通用すべきものと考えられ
る。したがって,学校法人の予算においては,資金収支予算書と消費収支予
算書とが必ず作成されるべきものである。
なお,貸借対照表および各種内訳表に係る予算書は必須のものとはいいが
たいが,これらの予算書を作成する場合は,その効果的な利用が望まれる。
W 予算管理組織の制度化について
学校法人における予算の編成と実行に関する関係各部門の関与の程度や権
限・責任のあり方は,学校法人の規模,その運営に関する考え方および関係
者の能力等に応じて多種多様であると思われる。
しかしながら,学校法人の予算制度は,一定の管理組織の上に一定の手続
きによって実算との有機的関係において保持されることが望ましいので,予
算の編成・実行のための管理組織を確定し,予算管理上の責任と権限を明確
にしておく必要がある。
X 会計組織の整備について
学校法人の予算制度は,必要な会計組織の整備を前提とするものである。
会計組織の整備にあたっては,実算が予算編成のための資料を提供しうると
ともに予算と実算との対比が常時行なえるようにする必要がある。これは,
予算と実算との差異により適時,適切に必要な措置をとることを可能とする
ためである。
Y 関係者の意欲喚起について
学校法人の予算は,すべての予算関係者の意欲を喚起するようなものでな
ければならない。予算が必要以上に拘束的であったり,予算内容の改善や拡
充の明確な将来目標および実現時期が示されないまま節約が強制されるよう
な場合は,関係者の予算制度への積極的意欲を阻害する結果になりかねない。
予算制度の効果的運用は,理事者も一般教職員も含めて学校法人のすべて
の関係者の一致した意欲によって支えられるものであり,意欲喚起の方法と
しては,責任・権限の明確化,予算編成方針の明確化と徹底,理事者による
学内の実情把握への不断の熱意と財源開拓のための創意工夫などが考えられ
る。
学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第3号)について
雑管第51号
昭和47年9月28日
文部大臣所轄学校法人理事長殿
文部省管理局長 安嶋 彌
「学校法人の予算制度に関する報告〈中間報告第3号)
について」について(通知)
学校法人の予算制度については,すでに学校法人財務基準の調査研究会か
ら中間報告第1号および第2号として報告を受けた部分について通知しまし
たが,昭和47年9月19日に同研究会から中間報告第3号として,別添のとお
り報告を受けましたので送付します。
各学校法人においては,予算の編成にあたり.この報告の趣旨を参考とし
て適切に措置されるよう願います。
学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第3号)について
(昭和47年9月19日
学校法人財務基準調査研究会報告)
学校法人の予算制度については,すでに一部中間報告しましたが,その後,
引き続き検討を行なった結果,このほど結論を得た部分について,別紙のと
おり(中間)報告します。
〔別 紙〕
学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第3号)
「予算の編成について」
T 予算編成の時期について
年度予算は,当該予算年度の開始前に編成し,かつ,所定の手続きを経て
確定しなければならない。
U 事業計画と予算について
予算は,具体的な事業計画にもとづいて,編成されなければならない。
予算編成を困難にさせるような事業計画案があるときは,これを再検討し,
事業計画と予算との一体化をはかる必要がある。
V 予算編成方針の明示について
理事長は,学事およびその他の活動の重点,目標および重要な制約条件を,
予算編成の基本方針として,あらかじめ予算の編成と実行の関係者に明示し
なければならない。
W 予算編成上の諸要件について
1 予算は,予算編成方針に従って編成されなければならない。
2 予算の編成にあたっては,事業計画実現の確実性,能率性および支出
の経済性を保持するように配慮する必要がある。
3 支出予算における資金の配分については,支出の効果が総体として最
大になるように配慮する必要がある。
4 予算金額の見積りの正確性と客観性は,適切な資料によって裏付けら
れなければならない。
5 数年度にわたる予算に関連する事項の各年度における予算の見積りお
よび複数の予算項目に関連する予算の見積りについては,それぞれ首尾
一貫したものでなければならない。
X 予算の修正について
年度の途中において,事情の変化により,当初の事業計画または予算を実
行することが不適当になった場合は,すみやかに,事業計画または予算の修
正の手続きをとらなけれぽならない。
Y 予算関係資料の整備について
予算については,その編成の経過および内容を明らかにするため,次のも
のを含む予算関係資料を整備する必要がある。
(1〉事業計画および予算編成方針にかかる資料
(2)予算の見積りにかかる資料
(3)予算の審議,決定の経過にかかる資料
(4)予算,実算の差異分析,実行結果の評価等にかかる資料
〈5)次年度予算の編成等に引き継ぐべき事項に関する資料
Z 予算編成における会計基準の適用について
学校法人会計基準(昭和45年5月2日報告)のU一般基準2・8は「必要
な時点と期間とについて,予算と実算との合理的な対照がなされなけれぼな
らない。予算と実算とは,ともに共通の会計基準にもとづかなければならな
い。」と規定している。したがって,予算が会計基準に準拠しなければならな
いことは当然であるが,予算の円滑な実行をはかるため,とくに予算科目の
設定にあたっては,予算管理に役立つよう,じゅうぶん配慮する必要がある。
[ 予算の明示について
1 予算は,予算書に明瞭に表示されなければならない。
2 予算は,その実行について理解と協力を得るため,適切な説明を付し
て,予算の編成と実行の関係者に周知させる必要がある。
学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第4号)について
雑管第51号
昭和47年11月14日
文部大臣所轄学校法人理事長殿
文部省管理局長 安嶋 彌
「学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第4号)
について」について(通知)
学校法人の予算制度については,すでに学校法人財務基準の調査研究会か
ら中間報告第1号,2号および第3号として報告を受けた部分について通知
しましたが,昭和47年10月24日に同研究会から中間報告第4号として,別添
のとおり報告を受けましたので送付します。
各学校法人においては,予算の実行にあたっては,この報告の趣旨を参考
として適切に措置されるよう願います。
学校法人の予算制度に関する報告(中間報告第4号)について
(昭和47年10月24日
学校法人財務基準調査研究会報告)
学校法人の予算制度については,すでに一部中間報告しましたが,その後
引き続き検討を行なった結果,このほど結論を得た部分について,別紙のと
おり(中間)報告します。
〔別 紙〕
学枚法人の予算制度に関する報告〈中間報告第4号)
「予算の実行について」
T 予算の遵守
予算の実行を担当する者は,予算に表明された事業計画を予算の定めると
ころに従って達成する責任と権限をもつ。それゆえ,予算の実行を担当する
ものは,次の事項を遵守しなければならない。
1 責任をもって予算を実行すること。
2 予算額を超える支出をしてはならないこと。
3 定められた目的外に予算を使用してはならないこと。
U 予算の弾力的運用
1 予備費の使用および予算の流用は,所定の手続を経て行なわなければ
ならない。
2 収入と支出の間に相関関係が認められる補助活動事業,受託事業等に
ついて,収入の増加に伴い予算額を超えて支出することがあらかじめ承
認されている場合には,所定の手続を経てその支出を行なうことができ
るものとする。
V 予算実行の管理
予算の実行を担当する者および予算の管理事務を担当する者は,次の事項
に留意して予算の実行が適切に行なわれるようにする必要がある。
1 予算の実行を担当する者は,予算の実績を常時把握し,これを予算お
よび事業計画とは対比して予算実行の経過および結果の検討を行ない,
適時,適切な措置をとらなければならないこと。
2 予算の管理事務を担当する者は,予算の実行を担当する者に対し,適
時に1の検討に必要な資料を提供しなければならないこと。とくに予算
と実績との間に異常な差異を予見し,または発見したときは,遅滞なく
これを予算の実行を担当する者に通知すること。
W 予算実行の結果報告
1 理事長は,年度終了後,すみやかに事業報告および決算報告をもって
事業計画および予算の実行結果を明らかにし,所定の承認を経なければ
ならない。
2 予算と実績との間に著しい差異があるときは,上記の報告において,
その事由を明らかにしなければならない。